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会合の一コマ9

皆がアルスに変態的な視線を向けている気がする。カイゼルはアルスが来たことに同じように相好を崩しつつ強い危機感を感じる。


「・・・。」

「大丈夫?」


怯えた様子のアルスをロッチナが気遣う。このなかで一番まともなのはロッチナだけとう有様に頭を抱えてしまう。孫同然にかわいがっている自分からすれば不埒極まりない彼女達に鉄拳制裁したいが会合という場故にぐっと堪える。


「そのー、だな、この子のことだが・・・。ワシが面倒を見ている人間の子で名前をアルスという。」


カイゼルがそう言うと皆は一度視線をカイゼルに戻した。真面目と欲望の切り替えが早い。


「人間の子か、しかし子供一人とは解せない。込み入った事情があると思うが?」

「ああ、この子は捨て子だ。」


そう言うと事情を知るロッチナとシシリア以外が驚いた様子でアルスに視線を戻した。


「こんなに小さな子を?」


馬鹿な・・・とアックスが目を見開く。口に出したものこそ彼女だけだったがそれでも皆の頭の中は一緒の考えを抱いていた。子は宝、子は安らぎ、子は希望、子は未来。

戦場を駆けた武人達だからこそわかる平穏の有り難さ。そしてそのために、ただその為に戦ってきた彼女達にとってその事実は見飽きたもの、それでも信じられない事実であった。


「とりあえずこの子が此処にいることはわかったそれで・・・アンタが言う新しい風ってのは・・・?」


ヴァネッサが辛気臭い雰囲気を取り払うように大きめの声で尋ねる。 強引だったが暗い雰囲気が少しばかり晴れたように感じる。


「うむ、何を隠そうアルスこそこの村の変革をもたらすとワシはみているのじゃよ。」


カイゼルは真面目な顔でアルスを見つめ、皆に躊躇うことなく言い切った。


「カイゼル、貴方がそこまで言うなら可能性は十分に有るってことね?」


「可能性か・・・そうじゃのう。人の子の成長は早い、体ももう五年かすれば大人になるじゃろうて。」


その頃にはわかるぞい、とカイゼルは言う。表情は明るいが言葉は真面目そのもの。彼女達はそんな様子のカイゼルに別な思惑を持ち始める。


それはカイゼルの跡継ぎとしての可能性。村の頂点に立つのは間違いなく今はカイゼルで揺らぎようがない。しかしその後は? 彼が不慮の事故で居なくなったら?もしくは引退したら?


鬼の寿命はエルフに匹敵する。 だがカイゼルは老齢の境、お迎えこそ何時来るかわからないが跡継ぎをと考えても可笑しくない年齢であることも確かなこと。


そんな折に現われた一人の人間の子供。


しかもこの少年をカイゼルは高く評価している。さらに言うならこの子は見目麗しい少年でもある。

こうなると放っておく理由がないだろう。


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