会合の一コマ4
「それは・・・だな。」
「それは?」
「私達のせいで獣が見つからなくて探し疲れてしまったようなんだ。」
「ふーん。」
冷たい瞳にロッチナの背筋につめたいものが走る。これはあれだ、正直に言うと狩られる。
「と、とりあえず代わってくれないか?この子もシシリアの方がうれしいだろう?」
防衛本能が最大限まで働いて最善の方法を体が自動的にはじき出した。これはあれだ、ドラゴンの雛を母親に返すくらい合理的かつ当然なハナシなのだ。たとえドラゴンの雛がどれだけ可愛かろうと母親と戦う気概は今の彼女にはない。
荷物を代わりにもつよ、と言うと有無を言わせず眠りこけるアルスを渡し荷物を受けとる。
「・・・仕方ないな。」
アルスを受け取ったシシリアは先ほどの冷たい瞳が嘘のように穏やかな笑みでアルスの寝顔を眺めている。まるで母親のようだ。
「しかしその子は随分と不思議な子だな。」
「なぜ?」
「どことなく・・・アンバランスなんだ。」
この子は何処の子なんだ? と尋ねると意外にもシシリアも知らないとの答えが返ってきた。
「ということは・・・捨て子か?」
「ああ、随分と怖い目にあったようだ・・・。いまでも時折魘されているよ。」
その言葉に思わずロッチナの体に感じれば総毛立つような殺気が走る。
ラミアは種族として子に対する愛情と執着が強い種族である。不仲の夫婦も子一つで変わるほどラミアの一族にとって子供は宝物なのだ。
「シシリア、私には人間のこういうところが何年経とうとも理解できない。」
「ああ、それは同感だ。」
それに、とシシリアは続けて言う。
「この子は才能を持っているんだ。それだけで身を立てられるような特別なのをな。しかしこの子はどういうわけか捨てられ、そればかりでなく母親の面影すらおぼろげだ。」
「才能というのは・・・?」
「この子は精霊化できるんだ。」
「な・・・! それは!」
ロッチナはアルスが精霊化が使えるという事実に頭を抱えた。精霊化とは魔法使いにとって至高のスキル。あらゆる魔法の使用と上達を約束されるだけでなく魔法を使う上での制約や魔力の枯渇を心配することもない。
そして人間の魔法とは比べ物にならないくらい強力な精霊魔法を操り、黙っていても精霊の加護を得られると言う良い事尽くめのスキル。精霊は世界を構成するエネルギーといって過言ではない。それを自分の力と同様に使用できる時点で
魔法使いはほぼそのスキル持ちには勝てない。
装飾や呪いで本人の魔力を封じても精霊化できる者なら精霊の加護を利用して魔法を使えるからだ。
大地や天空のエネルギーの一端を担う存在。それが精霊化を持つ者の存在を端的に現した言葉。悪意を持って扱えば災害をもたらすことも容易で善意を持って扱えば大地には恵みが溢れる。
天からの授かりものといって差し支えない。
そして精霊はよほどのことが無い限り精霊化を持つ魔法使いに従うため並の術師がどれだけ精巧な魔法陣を書こうが精霊化を持つ魔法使いが協力しなければ精霊魔法は使えない。
仮に精霊化を相手が使えたとしてもそれだけで精霊魔法の威力を半減させることが出来る。
極めつけは術者本人が精霊と同化するという精霊化の最上級レアリティの能力である。
精霊化とはそもそも魂や心を精霊に近づけるだけで本当に精霊になれるわけではない。精霊化でも純度が違えば精霊魔法が使えるだけであったり、精霊を味方につけるだけであったりする。
しかし精霊と同化し、自身が精霊と同様の性質を持てる精霊化の持ち主はもはや別格の存在。同じ精霊化の持ち主ですら同化できる術者には勝てない。
同化するということは文字通りその土地の精霊全てを味方につけるに等しい。いかに痩せて衰えた土地でも残った精霊の力を束ねれば小さな城を吹き飛ばすだけの力があるのだ。
人間が勝てる相手ではない。




