会合の一コマ3
しばらくすると獣人の女性が思い出したように手を打った。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。私の名前はビルニム、ビルニム・ウルフェンだよ」
自己紹介によると彼女は狼の獣人らしい。
「そうだった、それでは私も自己紹介といこう。 私はロッチナ、ロッチナ・クリンズだ、これからよろしく」
二人はそう言うとどういうわけか俺を抱えて歩き出す。
「降ろしてくれー。」
「いやだねー、っていうか最初と口調が違うね?」
「いや、それには理由が・・・。」
「最初のほうが可愛げがあるぞー、ほら年相応ってやつ。」
ビルニムは人の言うことを全然聞かないらしい。抱えられるままにハナシをしていたが頭が痛くなりそうだ。
「そういえば・・・かかったチャームはどうなる?」
「ああ、効いてなかったように見えたから大丈夫かと思っていたが・・・これでよしだ。」
チャームにかかったアルスが心配だったので尋ねるとロッチナさんは俺の背中をポンポンと叩いてくれた。お呪いかとおもったが背中に微かに魔力を感じたのでかけた側にとっては解除は簡単らしい。
「魔力を感じたけど・・・これで大丈夫?」
「ああ、チャームは繊細でな、魔力の加減を崩すだけで効果は途端に弱くなってしまうんだ。」
ラミアは瞳を相手に見せることでかけられる魔法。対象を魅了状態にして戦闘意欲を奪うことが出来る。
しかし精神作用のため意志の強さや魔力の調節のミスによって簡単に失敗してしまう難しい魔法らしい。
しかし詠唱を必要としないので老獪なラミアは会話に混ぜて相手を簡単に洗脳してしまうこともあるとか。とりあえずは戦闘向きではないらしい。
「ふーん、とりあえず大丈夫かな・・・。」
完全に魅了状態だったアルスに俺は頭の中で声を掛けてみる。
----アルス、大丈夫か?
『うーん、まだちょっとクラクラするけど・・・大丈夫。』
とりあえずは大丈夫そうなので一安心だ。しかしまあ、我ながら特殊な体質になったものだ。
精神が二つというよりは魂が二つといったほうがいいのだろうか。アルスに掛かったチャームは俺には効果がなかった。それは単純に受ける対象が二人いたからに他ならない。
「難しい顔して大丈夫か?」
「えっ? あ、うん平気だよ。」
いつの間にか俺を抱きかかえる相手がロッチナさんに変わっていた。 ビルニムよりでかいな・・・。
「・・・なんだか落ち着く。」
綺麗な女性に抱かれるのは悪い気分じゃない。けどそれ以上に子供の体が望むのだろうか、大人の女性に抱きかかえられると心が安らぐ。
「ふふふ、やっと子供らしい顔に戻ったな。」
ラミアの移動方法が特殊なのかそれとも彼女が上手なのか、アルスの体はじきに俺に睡眠を要求してくる。
「ついたら・・・おこし・・・ぐう。」
「いいとも。」
もとより抗えるものでもないが、俺はロッチナさんに抱かれるままゆっくりと眼を閉じた。




