勘当宣言は突然に
スキルは現世では前世からの『ギフト』と認識されます
俺は生まれ変わった。 そう、生まれ変わったのだ。しかし待遇をケチったせいか俺の生まれはしょっぱなから不幸の連続だった。まず俺の母親は貴族の妾。
しかも困ったことに正妻を差し置いて先に妊娠。俺を産んでくれた張本人だが俺が男に生まれたのが
まずかったのか御家騒動に発展。俺は父親にほとんど会うこともなく日陰の存在として暮らしてきた。
そんな俺が6歳になった頃、正妻に待望の世継ぎが生まれた。しかも男の子、元気そうないい子だ。
しかしそうなるといよいよもって俺の立場は悪くなる。もともと正妻の子が生まれなかった際のスペアレベルの価値しかなかったのだろう。母は俺を置いて生家に戻り、修道院に入った。
俺は最初から両親を当てにしていなかったがこれはさすがに辛かった。 子供をなんだとおもってやがる。
そして俺が10歳になり、腹違いの弟がお披露目を迎える頃俺は完全に用済みとなった。正統な後継者は大人たちの汚い事情なんて知ることもなく無邪気に微笑んでは俺に懐いてくる。
そしてお披露目が終わった日の夜。夜会に使用人同然に扱われていた俺は実の父親から直接勘当宣言を受けた。
「アルス、お前はもうわがサルーン家に居ていい人間ではない。」
ショックは大きい。俺というよりアルスが傷ついている。そりゃあそうだろうよ、たかだか10歳の子供が実の父親に捨てられるんだからな。きっとアルスは生まれた地から遠く離れたこの森に置き去りにされて儚い命を散らすのだろう。
だが、俺がそうはさせない。
「はぁ、やっと本音で話せる。」
俺はぐっと伸びをして堅苦しい服のボタンを外す。いままではアルスとして生き、彼の一部として彼を助けてきた。けど彼はもう駄目だ、ほとんど壊れてしまっている。そりゃあそうだよ、愛されたくて頑張ってきて可愛い弟ができたと思ったらここでごみのように捨てられるんだから。
最初に発動したギフト、『記憶の請来』で俺はおぼろげだった前世の記憶と人格を取り戻す。
そしてそれに従いギフトを全て解放する。詰め合わせパックの内容はこうだ。
魔法力限界突破・クリエイトマトン・精霊化・体重操作・魔力異常回復空間探知認識。
そして時間操作。
「人でなしの息子として生きるのはこれで最後、せいせいする。」
「なに・・・人でなし?」
「自覚がなかったのかい、息子を捨てる親が聖人君子なわけないじゃないか。」
ギフトの影響が始まり俺の体にこの世界では限られたものしか使えない魔法とその力がみなぎってくる。
まずは度肝を抜いてやろうか。
「弟がかわいそうだ、こんな父親に育てられたんじゃ将来が不安でならない。」
父親だった男は俺が嘲笑すると鋭い目でこちらを睨んでくる。腰に下げた剣に手をかけている辺り本当に救いようがない。
「わずかとはいえ長生きしたいなら口の聞き方に気をつけろ。」
「まぁ、怖い・・・腰のモノで幼子を脅すのですか?」
笑顔を浮かべたまま、ああ怖いとおどけてみせるとすぐさま俺に剣を抜いて切りかかってきた。
「ふふふ・・・。」
精霊化、風の精霊。精霊と一体化すると剣は素通りして地面を穿った。ホントに斬りやがった。
「当たったらどうするのですか。 ちちうえ?」
「な、貴様! 精霊化だと・・・?」
「まあ、物知りだこと。」
剣を踏みつけながら精霊化を解くと父は両目を見開いて驚いている。普通の男の子だった俺が精霊化を使えて驚いているのだ。
精霊化はエルフか王に仕えるレベルの魔法使いしかできない。精霊化すれば刃で傷つけることは出来ず、魔法でしかダメージは通らないのだ。 しかも魔法の行使がグッと楽になる。精霊化できる魔法使いはどこに行っても最高位の職を得られる。貴族が精霊化を使用できる魔法使いを輩出した際国王から褒章が授与される。それくらいの逸材。たった今この男は金の卵を自らの手で投げ捨ててしまったのだ。
「貴様・・・今まで黙っていたのか?」
「別にぃ、後生大事に育ててくれてれば御家の名誉だったでしょうがお披露目もしてくれず、そしてたった今勘当したアンタには関係ないでしょう。」
悔しそうに顔を歪ませる父親だった男を前に俺は腹を抱えて馬鹿笑いしてやった。