三年後
初日の盛大な歓待と二人が直面したアルスの才能に触れてから早くも三年の月日が流れた。
俺はシシリアさんとカイゼルさんの優しさを時に甘受し、時に気付かぬ振りをしてアルスの心と体を育てることに努めた。そして二人の優しさはホントに泣きたくなるほどあったかくてアルスの不幸を癒すぐらい深かった。
殺そうとした父親は勿論、アルスを置いて出て行った母親なんか比べ物にならないくらい優しくて最初は大人の男に恐怖感を持っていたアルスの心の傷も癒されていった。
そしてもう一つ、重要なことはアルスの体の動きを俺が任意でコントロールできるようになったことだ。
わかりやすく言うと二重人格のような状態になっている。
そして俺のそんな存在すらあの二人は理解してくれた。二人の器の広さと優しさはホントに頭が下がる。
基本的に俺とアルスの区別は口調と目の色で判別しているらしい。アルスはカイゼルさんのことを『おじいちゃん』と呼ぶしシシリアさんのことは『シシリアお姉ちゃん』と呼んでいる。眼の色に関してはアルスは青い綺麗な色だが俺は何故かくすんだ鳶色の瞳をしているらしい。 なぜだ。そんな俺はそれから二人に憚ることなく早朝から能力の研鑽に努めている。
「ふぅ・・・連続で時間停止するのはやっぱ辛いな。」
魔力は精神のブレに敏感なので俺が表に出ていないときは軽い魔法しか使えない。 最近は落ち着いたがアルスはまだまだ子供だしトラウマの傷はようやくかさぶたが出来始めたレベルだ。
そんな状態ではいくら魔力が多くなっても無意味だが俺がコントロールしている上では問題ない。
「早いな、ということはシャドウか。」
「やあ、そのとおりだよカイゼルさん。」
振り返って両手であっかんべーとしてみると鳶色の瞳を確認したカイゼルさんは指の関節を鳴らして俺に向かい合った。
「シャドウなら問題ないの、朝の鍛錬に付き合ってくれんかのう。」
「いいですとも。」
そう言うと俺は三年の間に訓練したギフト『クリエイトマトン』を発動する。 クリエイトマトンは素材を用意するとそれに応じて人形を形成する。残念ながら虚弱体質のアルスの体では同年代の子供にすら腕力ではまけてしまうので人形を使った戦闘方法を磨いている。作るのは森の中にある土や砂を利用して造るサンドマトン。
『グオッフォッフォ!』
カイゼルさんを上回る巨漢にしたいが為に三メートルにした。砂と土で構成されているため出現させる場所を選ばないのがいいところ。
「それではいくぞ!」
『おう!』
クリエイトマトンで生み出したマトンたちは皆がある程度の自我を持っているらしく学習能力があるらしい。 それだけでゴーレムとは一線を画した脅威的な能力を持つ。
「おー巨漢同士の殴り合いは見てて壮観だね。」
サンドマトンの行動パターンは巨体を生かしたパワーとカイゼルさんの格闘をアレンジしたもの。技術ではカイゼルさんに敵わないが格闘技の技の知識や破壊されても素材が続く限り再生可能というサンドマトンの強みを活かして互角の戦いが出来る。
「っと、そうれ!」
「危ないっ・・・と。」
そしてボクシングのスパーリングよろしくサンドマトンの攻撃を掻い潜って石ころや可能ならば直接攻撃を仕掛けてくる。今でこそ回避が可能だが最初のうちは散々にやられていた。初回はサンドマトンごと吹っ飛ばされて川に落ち、次は投げた石ころをモロに喰らって昏倒していた。その内自分の身を守りながらサンドマトンのパワーをコントロールできるようになりサンドマトン自身も戦闘回数を重ねてパワーとテクニックを積み上げ、経験を重ねてきた。こっちは全力なのに未だに遊び半分で俺の相手を出来るカイゼルさんははっきり言って化け物だ。




