最終話【コシコシスペシャル】
ついに親子2代にわたっての悲願であるジュニアヘビー級チャンピオンとなったコシコシシロ―。ところで、それをきめた最後の連係はどういう経緯で誕生したのか?
試合後のインタヴューでコシコシシロ―はこう語った。
「ああ、あのダイヤモンドカッターですか?あれはもう完全に、体が自然と動いただけですよ。まさかダイナマイト選手がオレの後頭部目がけてダイビングヘッドをやってくるとは思わなかったので驚いたんですけど、ダイビングヘッドをやってくるなら頭か顔をキャッチしてダイヤモンドカッターかなって……。いや、もう、とにかく、ただの偶然の産物ですよ。ハハハハハ」
しかし、その偶然の産物によって、コシコシシロ―は見事チャンピオンになったのである。のちにコシコシシロ―がおこなったこのときの連係は【コシコシスペシャル】と呼ばれ、真似るレスラーはほとんど現れなかったものの伝説の連係として語り継がれていった。
しかし、そんな狂喜乱舞も束の間のことだった……。
初代コシコシシロ―に勝利を報告するべく、コシコシシロ―はピーチ太郎とともに栃木県日光市の総合病院の集中治療室へと向かった。
しかし、そこに待ち受けていたのは、白い布が顔にかぶされていた初代コシコシシロ―だった。
「息子さんですか?」初代コシコシシロ―の主治医がたずねてきた。
「は、はい、そうですが」
「お父様はさきほどお亡くなりになられました」
「う、嘘でしょ?」ピーチ太郎は全身をワナワナと震わせていった、「おやっさん、せっかく2代目がチャンピンになったばかりだってのに!」
やがてピーチ太郎はむせび泣き出したが、コシコシシロ―のほうは冷静さを保ち続けていた。初代コシコシシロ―はいつ他界してもおかしくない状態であり、すでに何年も前から心の準備はできていた。それに他界する前にチャンピオンになることができたのであり、報告はできなかったものの上出来といっていいだろう。
むせび泣き続けるピーチ太郎を横に、コシコシシロ―は初代コシコシシロ―の顔にかけられていた布をそっとどかした。するとそこには安らいだ表情の初代コシコシシロ―がいた。
そんな初代コシコシシロ―に2代目コシコシシロ―は、最後のドリアンをナイフで切って枕元に置いた。
ヒップアタックに生涯を捧げた男・初代コシコシシロ―は、息子たちに見守れ、ドリアンの異臭に包まれながら天国へと旅立っていった。【終わり】