第3話【誓い】
コシコシシロ―とピーチ太郎がタクシーで駆けつけたのは、実家のある栃木県日光市の総合病院だった。そこの3階の集中治療室に、コシコシシロ―の父親である初代コシコシシロ―が植物人間状態で入院しているのである。
━━【コシコシシロ―】とはかつて新日で、ドラゴン藤波と長州力の影の隠れながらも、根強い人気を誇っていた往年の名レスラー、越中詩朗からきている。その越中詩朗の代名詞がヒップアタックであり、それに魅了された初代コシコシシロ―は独自に練習を重ねてヒップアタックをものにした。
しかし、悲劇は起きた━━。
ある試合中のことだった。敵をロープにふってヒップアタックを狙ったまではよかったが、敵がロープに腕をからめてヒップアタックをかわしたのである。
するとそこには後ろを向きながら尻餅をついている初代コシコシシロ―がいるではないか。その姿はもはや【どうぞお好きに致命傷になる大技をたたきこんでください】といっているようなもの。
敵の選手はそんな初代コシコシシロ―の後頭部にシャイニングケンカキックをたたきこんだ。そして初代コシコシシロ―は後頭部を骨折した上に脳にも損傷を負い、意識不明の植物状態に陥ってしまったのである。
それから10数年が経過したこの日、なんと初代コシコシシロ―が閉じられ続けていた目を開けるという奇跡が起きたのである。
集中治療室に駆け込む2代目コシコシシロ―と弟弟子のピーチ太郎。その瞬間、ピーチ太郎が顔をしかめながらつぶやく。
「うわぁ、この匂いにはなかなか慣れないもんすねぇ……」
ピーチ太郎が顔をしかけた異臭の正体は、ベッド上の初代コシコシシロ―の枕元に置かれているドリアンによるものだった。
ドリアンは初代コシコシシロ―の好物であり、集中治療室内がドリアンの強烈な異臭でびっしりと席巻されていた。
『ドリアンは果物の王様なのだから、プロレス界の王になるにはオレもドリアンを食べないとダメだろ』━━コシコシシロ―が初代コシコシシロ―に死ぬほど聞かされた言葉だった。
「おやじ!」
コシコシシロ―がベッドのそばに駆け寄ると、両目をぼんやりとだが開けている初代コシコシシロ―がいた。
「ああ、よかった。ついにおやじの意識が戻ったんだな。胸がメチャクチャ軽くなった気がするぜ」
そういうコシコシシロ―にピーチ太郎がため息まじりにいった。
「2代目、残念ながら意識が回復したわけじゃないんです」
「え?」
「ただ目が開いたというだけで、お医者さんがいうには意識が戻ったわけじゃないそうなんですよ。残念すけどね……」
「そ、そうなのか……」表情を暗く沈み込ませるコシコシシロ―。「でも、10数年ぶりに目が開いたんだ。ものすげー進歩だと思うぜ」
「ま、そうすっね」
「おやじ、見ててくれよ。オレがこれからヒップアタックをかわされたときの対策を練り上げて、ヒップアタックを無敵の技にしてやっからな!」