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#3



全校生徒が何百人いるかわからないけど、その全員の視線は一点に集まっていた。


…僕と生徒会長さんである。


体育館の舞台上、しかもそのど真ん中で見つめあう…人前が苦手ってほどでもないけど、大観衆の前ではさすがに緊張してしまう。


その点、目の前の会長さんは平気なのか慣れているのかはわからないけども、焦るどころか顔色一つすら変えていない。


しかもこの全校生徒の目が気にならないのか…僕の名前が呼ばれてから、会長さんは一度として僕から目を離さない。


………呼ばれたってことは、僕に何かあるんだよね…さっき、校長先生の話を聞いてなかったのがバレたのかな…





「…箭内善人、私を知っているか?」


「ふぇ?あ、はい。確か………す、すいません!名前は出てこないんですけど、生徒会長ってことは知ってます!!…本当にすいません、さっき聞いてたはずなんですけど、難しそうな名前だった気はするんですが…」


「いや、気にしなくて良い。初対面なんだから仕方ないさ。楼柳美琴だ、今度はしっかり覚えててくれ」





美琴会長のとっさの質問に、名前が出てこないというかなり失礼な対応を僕はしてしまう。


…あなたに見惚れてて、名前なんて覚えられなかったんです………何て言えるか、ただの恥さらしだよ!


写真を見たときから知りたかった名前をやっと頭に叩き込みながら、僕は深く頭を下げていた。


こんな僕を咎めることなく、きちんともう一度自己紹介してくれるなんて…容姿と同じぐらい、きっと心も綺麗な人なんだね。はい、もう完璧に惚れました!





「おいおい、頭を上げてくれ…別に怒ってるわけじゃないし、入学したばかりで緊張もしてるんだ。謝る必要は無い」


「はい、すいません…あ、また謝ってすいません………あっ!いや、これはわざとじゃないんです!!」


「ふふっ、君は面白いな…よし、決めた。これからは善人って呼ぼう。いいな?」


「………あ、はい!ご自由にお願いします!!!」





一人で焦っている僕を見て、無表情の美琴会長が軽く微笑んだ。そう、ホントにすこしだけど笑っている。


もう、見惚れるとかのレベルでは解決出来ない…リアルに呼吸を忘れたのは、これが人生で初めてかもしれない。


たくさんの人が見ているとか、僕にはもうそんな事どうでもよかった。視界に入る美琴会長、それだけが今の僕の全てだった。


………そのせいで、このあとの事態をちゃんと理解しないまま、僕は自ら巻き込まれていく。





「ところで善人、君はその…片想いしてる人や、好意を持つ女性がいたりするのか?」


「…います。今日、出来ました!」


「!!!!!…なっ、何だと!?ま、まさか、今日ということは、この学校に、君が好意を持った奴が!?」


「………はい!!」


「くっ!…もうすでに、善人の心は誰かに奪われていたのか………言え、私に言うんだ善人!君は一体、誰に惚れたんだ!?」





冷静沈着なイメージだった美琴会長が急に声を荒げながら僕に近づき、僕の両肩を掴んで前後に揺らし始めた。


か、顔が近いですよ美琴会長………ってあれ?なんで会長、こんなに怒ってるの!?


どこぞのお花畑にぶっ飛んでいた僕の意識が、美琴会長の目鼻立ちの整った…とても恐ろしい顔により、現実へと帰ってくる。


そこでハッとさせられる。僕は会長の質問に、全て素直に答えていたことに気づいたからだ。


誰に惚れたかって聞かれても…本人を目の前にして、こんな大勢の前で告白なんて出来ないよ!!


さすがにこの質問には素直に答えるわけにはいかないので、未だに怒っている美琴会長から目を背けて口を閉じた。





「早く言え、今すぐ言うんだ善人!…それともあれか、君が好意を抱いた女は…私に言えないような奴なのか!?」


「…か、会長だから、言えないんですよ…」


「わ、私だから、言えないというのか!?…そうか、よ〜く解った。仕方ない、これだけは君に使いたくなかったんだがな…」





そう言って美琴会長は、僕の肩から片手だけ離して制服のスカートのポケットを探りだした。


反対の手は掴まれたままなので、そう簡単には逃げられそうもない…っていうか、女子のスカートってポケットあるんだね、初めて知ったよ。


それに、今更ながら気づいたけど…会長ってイイ匂いがする。会長さんの髪が揺れるたびに、上品な石鹸のようなふわっと優しい匂いが………




《ガチャッ》




………あれ?右手に何か…


美琴会長の髪の匂いに集中しすぎて気づかなかったけど、どうやら会長さんが僕の右手に何かをしたらしい。


見てみると、真っ赤なブレスレットのようなリングが僕の右手首につけられていた。


ピッタリくっついてるので、ずらして外すことは出来そうにない。あ、裏の繋ぎ目のところに鍵穴がある。


これが何なのか美琴会長に質問しようと再び会長の顔に視線を向けると、怒っていたはずの会長は…満面の笑みを浮かべていた。





「フハハ、まさか私がこれを使う時がくるとはな!…私自身ですら思っていなかったぞ!!」


「あ、あの…これって何なんですかね?」


「ん?ああ、これか?これは君が、私の所有物になった証だ!」


「…へ?…しょ、所有物?」


「そうだ。今日…いや、たった今から君は私の物になったんだ。悪いが君に拒否権は無い、すまんな。ハハッ!」





…いや、そんな笑顔で言われても。


僕の意思など関係ないらしく、美琴会長は高らかに笑い続けている。


それにしても…所有物って、どういうこと?展開が早すぎてわかんないんだけど、僕はどうしたらいいの?

















しばらくして会長の笑いが少し引いてきた頃、美琴会長は壇上にあるマイクを使って一部始終を見つめていた全校生徒と教師に向かって話しだした。





『筆頭生徒特権のスレイバリーリングを箭内善人に行使した。これにより、彼の校内及び校外での時間全てが私の管理下に置かれることになる』





………はぁ!?





『それと、私のファンクラブは只今をもって解散とする。私への携帯電話等での撮影及び盗撮はこれからも禁止だ。出回ってる写真なども即刻回収、廃棄処分するので持っている者は速やかに提出するように』





会長が話を終えたその瞬間…二、三年生を中心に次々と抗議や苦情の声が上がり始める。おそらく、ファンクラブの会員だと思う。


一方僕は、自分の時間が全て会長に管理されるなんて意味不明なことで頭がいっぱいになっていて、ファンクラブがどうこうの話どころではなかった。


すでに事態は収拾がつかなくなっていて、司会の先輩も『静かに、静かにしてください!』と大声で呼びかけてはいるが全く効果はみられない。


しかし先ほどの発言をした美琴会長は一切慌てることなく、備え付けのマイクを外して片手に持ちながら舞台の一番前まで歩くと、ギャーギャー騒ぐ生徒たちを一喝する。





『煩いぞ、貴様ら!大体、これまで私の都合も考えずに好き勝手にやってきたのは、お前らファンクラブの人間たちだろう!!私の体は私の物であって、貴様らの物じゃないんだ!!!』





貯まっていた鬱憤を晴らすかのように、美琴会長は騒ぐ生徒を強い口調で黙らせた。口を開けば殺される、今の会長なら殺りかねない…隣にいる僕は真剣にそう感じていた。


さすがに怒号混じりに喚いていた生徒も美琴会長の気迫には何も言い返せないようで、 その場は一旦沈静化する。


体育館内全体を一睨みして皆が静かになったのを確認した美琴会長は、マイクを持ったまま僕に視線を戻した。





『だが箭内善人、確かに私の体は私の物であるが…君の体は、私の物だ』





振り向いたその顔は再び笑顔になっていて、ゆっくり僕に近づいてくる。


惚れた身からすれば喜んでいいはずなんだけど、今の僕は恐怖に怯えていた。


…猛獣に喰われる、本能がそう叫んでいるからだ。





『いや、体だけじゃない。君の行動、言葉、感情すらも…君のこれからの人生を全て私に捧げろ』





ある意味、それは正解だった。


会長は僕の真正面に立ちマイクを投げ捨てて、全校生徒に見せつけるように僕の顎に手を添え構えると…















「もちろん、この唇もな」



…ためらいなく、僕にキスをした。
















その三秒後、体育館内を震えるほどの悲鳴が飛び交うことになったのは言うまでもない…








「えっ!?…何なの!?」




突然地鳴りがして、学校へと向かっていた女生徒は少し戸惑っていた。


どうやら自分が通う学校の方向から聞こえてくるようだが、工事や事故のような音ではない。




「これは…人の声?いや、まさかね…」




地面が揺れるほどの声など聞いたことがないその女生徒は、自分を否定するように呟いた。


だけど確実に学校から音がしてるのは事実なので、それが何か知りたい彼女は自然と歩くスピードが早くなっている。




………この女生徒が善人と出会うのは、ホントにあと少し先の話である。





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