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#2



「あ〜、やだやだ。どうしてあの二人はあんなに仲が良いのかなぁ…」





ピンクのオーラを放つ自宅から逃げ出し、今は順調に新しい通学路を迷うことなく歩いている。


朝から自分の両親のらぶらぶっぷりを見せつけられ、息子ながらあれでいいのか少し疑問に感じていた。


…仲が悪いよりはいいけど、毎日毎日気を使ってるとさすがに疲れるよ…


中学校よりも遠くなった学校までの道のりで、僕は軽くため息を溢していた。














「会長、例の案ですが…下手をすると、暴動騒ぎになるかと」


「大丈夫だ。私が全て責任を取る」


「ですが、あまりにも例外過ぎる上に会長個人の問題では済まない可能性が…」


「…そうなった場合は、潔く会長職から退こう。ただの女のわがままなら、誰も文句は言えないだろ?」


「そ、それでは生徒の対応はどうするんですか!?それにもし会長がいなければ、あの美鈴に歯止めが効きません!!」





………やれやれ、私に自由はないのか…














どうやら僕は運がいいようだ。二つも良いことがあった。


まず一つは、担任の先生が若い女の人だった。これはいいね。


隣のクラスなんて髭生やしたおやっさん風な人だし、これから一年間のやる気を考えれば女性の担任ってかなり嬉しいよ。


…美人か?って聞かれれば、それなりに…って感じだけども。





「…では、新入生歓迎式がありますから放送が流れたら体育館に集合して下さいね」






はーい、と皆で返事をすると、先生は教室を出ていった。


先生がいなくなれば自然と教室の中はざわつきだすのが決まりみたいで、僕も例にもれず椅子に座ったまま後ろを見る。


僕のすぐ後ろの席、そこに僕のもう一つのラッキーがいるからだ。





「なぁ善人、先生って若そうに見えるけど、あれ30は越えてるよな?」


「…大地はバカだね。女の人には見た目より、10歳ぐらい下の年齢を言うのがマナーなんだよ?だから、先生は23歳ぐらいなの」


「………それはお前も、30ぐらいだって言ってるようなもんだろ」


「そうかな?…まぁどっちでもいいじゃん、隣のクラスの担任よりはマシだからね」





最初の一言から先生の年齢の話題を出してきたこの男は、高橋大地‐たかはしたいち‐という僕の友人である。


地元の中学から半分ぐらいはこの高校に進学するのだけど、元々友達が少ない上に他の中学からも生徒が集まるので、さすがにクラスは別々になると思ってた。


でもこうして大地と同じクラスになれて、僕は結構ホッとしている。一人でも友達がいれば、それだけで安心して高校生活を過ごせそうだ。


…恥ずかしいので、本人には決して口にしない。






「そう言えば、善人は勧誘されたか?」


「勧誘?…部活の?」


「違う違う、確か生徒会長のファンクラブとか言ってたような…入ったら写真貰えたぜ。これだよ、これ!」





…入ったの?…大地は詐欺とかにすぐひっかかりそうだね。


嬉しそうに大地が出した写真を見てみると、かなり綺麗な…芸能人とかモデルのような女性が写っていた。


うわ、想像以上だ。この人が同じ学校で、しかも生徒会長なんて…ファンクラブが出来るのも納得だよ。だって、僕も欲しくなったもんね。


大地の話だと、会員になれば無料で貰えるらしい。勝手に撮影とかしない代わりに、ファンクラブが公認されてるとかなんとか。しかも、年会費も無いそうだ。


どうやら今日の式のあと、部活の紹介と一緒にファンクラブの説明会があるらしい。よし、こうなったら僕も参加しようかな。


たった写真一枚で魅了されてしまうほど、綺麗な先輩か。同じ学校なら、一度は見てみたいなぁ…













………校長先生の話の内容って、普通は覚えてないよね。うん、僕は悪くない。


いつのまにか校長先生の話が終わっていて、皆が拍手し始めていた。僕も慌てて手を叩く。


ぼーっとしていて全く聞いてなかったけど、何となくいい話をしてた気はする。さすが校長先生。


さて、いつ始まったかもわからない新入生歓迎式もそろそろ終わりだろうと思っていると、司会者みたいな生徒が次のプログラムを淡々と読み進めていく。





『…続いて一年間を通しての年度行事等の説明を、生徒会を代表して楼柳美琴‐ろうりゅうみこと‐生徒会長、お願いします』





司会者の声を聞いて、一人の女生徒が舞台袖からゆっくり歩いてきた。


生徒会長って…あの写真の美人さんだ!やっぱ実際のほうが綺麗だし、歩く姿勢も凛々しくてカッコいい。ダメだ、これは一目で惚れちゃいそうだ。


見惚れてるのは僕だけじゃないようで、新入生だけではなく二、三年生もざわめき立っている。


それどころか「よっ!待ってました!」とか「美琴ちゃんこっち向いて〜!」など、男子女子問わず色んな声が飛び交っている。すごい人気だ。


先生たちも注意しない様子を見ると、もしかしたらこの美人さんが出てくるたびに毎回この反応なのかもしれない。


壇上の真ん中で一礼して、生徒の並ぶ正面に体を向き直す生徒会長。いや、写真とは全然表情が違っている。


目鼻立ちは整っている上に、高校生とは思えない雰囲気、それに遠目で見てもスタイルはかなり良さそうだ。


艶のある黒髪は後ろで一つに結んであるけど、かなり長そうだね。ほどいたら腰辺りまであるのかもしれない。


まだまだ周りの生徒たちはかなり煩いみたいだけど、僕の耳にはもうそんな音は聞こえてなかった…ただ単純に、目に写る女性に心を奪われている。




『…静かに。これより年度行事の説明をする、楼柳美琴だ。まず、今日の新入生歓迎式の後で各部活動の説明会がある。そして明日か明後日に………』




まだ少しざわつきのある体育館内なのに、生徒会長であるその先輩の声が皆の耳に届いた瞬間…誰しもが口を閉じ、僅かな物音すら聞こえなくなった。


頭の中に全て入っているのかわからないけど、壇上の美しい生徒会長は新入生に端から一人づつ視線を向けながら、一年間のイベント事をカンペなど見ずに話している。


あ、僕とも目が合った………ん?あれ、ずっと僕のほうを見てるような…気のせい、だよね?


全体を流れるように見てたはずの生徒会長は、その後もこっちを凝視しながら話を進めていく。


後ろの大地が「お、俺、見られてる…」とか言いだしたので、やはり僕の周りを見ているんだろう。何か落ちてるのかな?


真正面から見つめられるとさすがに気まずいので、僕は壇上を直視せずに下を向いて話を聞いていた。





『それから年度末の実力テストが終われば………………なぜ君は、私を見てくれないんだ?』





すると、話がまだ途中のはずの生徒会長さんが突然誰かに話しかける。


急に内容が変わったことに、生徒全員が戸惑いを感じていた。僕も一応は気になったので、再び会長さんを見てみると…




『そう、君だよ…箭内善人』





















………はい?


…どうやら聞き間違いじゃなく、僕を名指ししたらしい。何これ、ドッキリ?





「恵波、予定変更だ。今すぐ発表する」


「か、会長!?お、お待ち下さい、他の生徒もおりますよ!?」


「構わん」


「ですが、会長!!」





僕を見ていた会長さんは、今度は司会者の先輩に何かを話している。


司会をしている女性は、必死に説得しているみたいだが…生徒会長も全く引く様子はない。


そもそも話の内容がまるでわからないので、全校生徒に教師一同も二人のやりとりをただ見つめ続けている。もちろん僕もだ。





「…恵波」


「もう少し!もう少しだけ時間を…」


「二度も言わす気か…この私に」


「っ!?………『し、新一年生の箭内君、箭内善人君。舞台に上がって下さい…』






生徒会長の雰囲気が威圧的になると、司会をしてる先輩はビクッと体を震わせながら僕の名前を呼んだ。


…黙って従うしか、道はないよ…ね。


無視する意味はないし、度胸もない。僕は恐る恐る立ち上がって、全校生徒の注目を浴びながら舞台に近づいていく。


舞台袖の階段に足をかけた時、司会の先輩が声をかけてくる。




「…ごめんなさい、頑張って…」




よくわからないけど、これから大変なことになるようだ。


…うっ、ヤバい…緊張で吐きそうだ…


一歩進むたびに血の気が引いてるのもわかる、だけどそれとは反対に僕の心臓は普段以上に高鳴っていく。











…こうして僕の普通な人生は、錆びた歯車のように音を立てて周り始めたのだった。


目の前にいる、美しい生徒会長と共に………









「…あ~、このゲームも飽きたわね~」




7週目のクリアをしたRPGをリセットしながら、暇を弄ぶ一人の女…


毎日ゲームとネットの繰り返しばかりで、さすがに自由を満喫しすぎた気がしているらしい。




「………たまには、遊びに行こうかしら?」




立ち上がり、クローゼットを開け奥を漁ると…女は久しく袖を通していない制服を見つける。


自堕落な生活をしてたにも関わらず、服のサイズは一切変わってなかったことに喜びを感じながら…女は目的地である、学校を目指して歩き出した。


…彼女が善人の二つ目の歯車になるのは、もう少し先の話である。


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