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#1

僕はこれまで、とにかく普通だった。


小学校も中学校でも、あまり目立たないが友だち数人と仲良くやっているような、とくに変わった様子もない一般ピーポーだった。


…もちろん美人で成績優秀でスタイル抜群な幼なじみなど、いるわけがない。


可愛いなぁと思う同級生はいたこともあるけど、告白なんか出来なかったし、ましてや僕が告白されるなんてあるわけがなかった。


…もう一度ハッキリ言おう。僕は普通だった。









…ん、ん〜…ふぁ〜、もう朝だ。


目覚まし時計よりも早くに起きれるなんて、今日はたぶん良い日になるね。


鳴らない目覚ましを解除しながら、僕…箭内善人は新しく始まる学校生活にちょっとだけ胸を踊らせていた。


今日から高校生…特に何も変わらないはずなのに、真新しい制服を見てしまうとどうしても気分が浮かれてしまう。



すぐに着替えてもよかったけど、こういう日に限って朝ご飯の時に汚しちゃったりするから、念のため部屋着のままご飯を食べることにしよう。うん、僕ってそういう奴なんだよね。


二階の自分の部屋を出て、一階に向かう。この時間だともしかしたら朝ご飯はまだ準備中かもしれないけど、その時は少しテレビでも見てればいいか。


リビングの扉を開けて、テーブルの上を確認する。やっぱまだ早かったらしく、新聞を読んでる父さんの隣に座りながら朝のニュースを見始めた。




「お、早いな善人…さすがに高校生にもなると、気の引き締まりかたが違うのか?」


「おはよう、父さん。そんなんじゃないよ、ただいつもより早く起きただけだって」




朝から親子で面と向かって喋るなんてあるわけもなく、僕はテレビに父さんは新聞に目を向けたまま何気ない会話をする。


仲が悪いわけじゃない、むしろ普通の家族よりは仲良くしてるつもりだ。仲が良いからこそ、素っ気ない会話になってしまうのかも。


今日の天気やら芸能ニュースを一通り流し見ていると、気づかないうちにテーブルにはトーストなどが並んでいた。




「あ、母さん大丈夫?言ってくれたら運ぶの手伝うのに…」


「いいのよ、善人とパパは座っててね。あとはスープを入れるだけだから…」




両手でサラダボールを運ぶ母さんは、僕が手伝うのを笑顔で拒んだ。



母さんは昔から、僕や父さんに家事や買い物を任せたがらない。重い荷物や洋服などはさすがに一緒に買いに出かけるけど、近所のスーパーでの買い物は全て母さんが担当している。


掃除や洗濯も、頑なに母さんが一人でやりたがる。悪い気はするけど、勝手に手伝おうとすると余計に機嫌を悪くするので、今ではそれもやらなくなった。


どうやら母さんには信念があるらしく…父さんは会社に、僕は学校に、そして母さんはお家に、それぞれの仕事があるとの考えらしい。


そして…そんな母さんには、もう1つ大事な?仕事がある。




「準備も終わったし、それじゃ皆で…」


「「「いただきま〜す」」」


「はい、たくさん食べてね。それでパパ、今日は何から食べたい?」


「………ママに任せる」


「じゃあ、まずはパンから…あ〜ん」




父さんの気の無い返事を聞くと、母さんはトーストを上手に小さくちぎって父さんの口まで運んでいく。


そう、母さんのもう1つの仕事とは…父さんにご飯を食べさせること。


もちろん父さんは自分でご飯を食べれるし、会社での食事は一人である。それにお箸なんて、僕より丁寧な持ち方をしていたはずだ。


ただ、お家で母さんとご飯を食べる時は…父さんが自分で食べることは許されないらしい。


母さん自身の食事は後回しにして、父さんにバランスよくパンなどを食べさせていく。見ているこっちが恥ずかしいぐらい、らぶらぶな夫婦だ。


父さんも結構恥ずかしいようで、たまに僕をちらちら確認しては母さんを説得しようとする。




「なぁ、ママ?やっぱり、自分で食べるよ。善人が見てるのに朝はさすがに…」


「ダ〜メ。パパはこれからお仕事なんだから、ご飯だけは私が食べさせてあげるの!」


「でも一口食べるたびに、あ〜んってやるのは恥ずかしいし…」


「………恥ずかしい?妻である私の愛が?…パパ、次はスープを飲みましょうか…」




声のトーンが二段階下がった母さんの顔から、笑顔が消えた。


…うわぁ、父さんもバカだなぁ。朝から母さんを怒らせると、父さんが一番大変なのに…


父さんも焦り始めたが、時すでに遅し。母さんはスープを父さんではなく、自分の口に流し込む。


そして、スープを含んだ口を…父さんの口に押しつける。要するに、スープを口移しで飲ませるのだ。


少しだけ父さんの口からスープが垂れるが、その滴も母さんは無表情のままに舌を使ってキレイに舐めとる。


こうなった母さんと父さんはただのバカップルになるので、僕は急いで食事を終えて逃げるようにリビングを出る。


年頃の息子に気を使うどころか、僕のほうが気を使って二人っきりにさせてるってのに…まぁ幸せそうだからいいんだけどね。



二階の自分の部屋で制服に着替えたり馴れないネクタイを絞めたりして、再びリビングに戻るまで約10分…未だに両親は仲良くチュパチュパしてたので、小声でいってきますと呟いて玄関の扉を開ける。


…こうして僕の新しい高校生としての1日は、いつもと変わらない朝を迎えて普通に始まった。








「ねぇ、パパ…今日はお仕事、お休みして?」


「あのな、今月すでに二回もずる休みをしてるんだぞ?さすがに今日は…」


「………ダメ?」


「…ハァ、仕方ない。今日は風邪気味だから、会社に電話して休まなきゃな…」


「やった~!…もう、パパ大好き~!!」




…愛する妻には逆らえない、箭内さん家のお父さんでした。

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