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 普通、<サガ>での買い物っていうのは二種類に分類されている。

 実際にそのショップに並べられているものを選ぶのと、ウィンドウにあるデータ化されているものを購入するものだ。


 前者の特徴はばらつきがあること。品質はとびぬけていいものもあればキズものが混じっていたりして、目利きの能力が必要になってくる。一点ものや訳あり品など、お宝が眠っている可能性があるのもこちらだ。といってもたいていは見かけ倒しのものに騙されてオシマイになってしまうらしいが。


 後者の特徴は常に均一っていうことだ。例えば、『ティンファークの木材』というアイテムをウィンドウから100個買ったとする。そうしたらまったく同じ形のしている木目まで同じものが100本手に入ることになるんだ。その店がつぶれるか商品を並べ替えたりしないかぎりはつねに同一の品質が提供されることになる。


 まあ、アイテムをデータ化してまとめるにはいくつか条件があるからすべてそうできるわけじゃないらしーがな。









「ウィンドウにある商品を買うのにも、その店にいかなかったらその店のウィンドウは表示されないから足を運ばないかぎりは買うことはできない。それが僕たちの常識だ」

「馬鹿じゃねーの? 店に入ったときに表示するようにと店を出るときには消えるようにと条件付けられていることと、権限があるかないかっていうことは別問題だろうが。街の中ならどこだってリンク機能は働く――権限はあるわけだから、どこにいたって買い物はできるってことだろ。店のリストなんぞをわざわざ初期設定いじくって非公開にしているところはあんまないしな。流石に街の外のフィールドや街の中でもダンジョンとかは権限ないからどうしようもないけど……つーことだ」


 先輩はパチクリさせると疲れたように、わかった、と言った。


「要するに――君はこの価値がわかっていないだね?」

「えっ、こんな豆知識が金になるのか?」


 マジか? こんな初日には知っていたことが知られていなかったなんて嘘ってもんだろ?


「ここであと十日間は三食食えるくらいの金額でも安いくらいだよ。情報通を気取るつもりはないけど、最古参の僕が知らなかったことなんだよ?」

「なんでだよ、こんなの誰にでも試せばわかることだろ?」

「逆になんでできたのさ? 僕たちにとっては望んでも望んでもできなかった機能なのにさ」


 ……なんだ、この食い違いは。

 オレにとっては説明書見ずにてきとうなボタン操作していたらできたようなことなのに、先輩はできるようにならないのか、いろいろ試してもできなかったことだと言う。

 別のゲームの話をしているみたいで気持ち悪いな。


「ったくよぉ、実際にやってみたほうが早いんじゃねーか。一番、基礎的なことをやってみるからちょっと見てろや」

「そのほうがいいかもしれないね。頼むよ」


 まずはここステーキハウスのメニュー代わりになっているウィンドウを手元に呼び出す。

 もっとも一般的な、商品とその説明がずらーっと並んでいるリストだ。


「こいつをまずはリセットする」


 オレがそう念じたら、リストにあったら商品名が一気に消えていく。


「……えっ、なにをしたのさ?」


「この店固有のデータを削除して、ショップのリストの雛形を取り出しただけなんだから騒ぐなよ」


 現在のウィンドウには商品は一つも並んでいないことになっていることはもちろん、最上部に表示されていた店名や営業時間、要所要所に書き込まれていた店長のコメントなども空白のスペースになっている。背景となっていたちょっとした画像も真っ白くなっている。いわゆるテンプレートっていうもんの状態だな。


「どこでそういう操作ができるのさ」

「思念操作に決まっているだろ?」


 先輩はどういうわけかオレを睨んだが、続けて、とうながした。


「もう終わりに近いんだけどな。この雛形に――そうだな、さっきの広場の近くにあったアイス屋の店IDをぶちこむ。そうしたらアイス屋のメニューが表示されただろ? じゃあ、ちゃんと機能するかどうか買ってみてくれ。チョコチップのやつな。ほら、買えただろ? たったこれだけのことだ」


 先輩の目の前に出現したアイスを受け取って、かじりつく。

 やっぱデザートは別物だよな。これもオレの金じゃないし。


「いろいろと言いたいことはあるけどさ――それは置いとくとして。その、アイス屋のIDっていうのは何番でどうやって調べるのさ?」

「アイス屋のIDは『アイス屋のID』だろ? それ以外のなにがあるんだ?」


 しばらく絶句した先輩だったけど、ややするとぶつぶつと呟き始めた。プログラミングっていうわけじゃないのか、とか言っていたけど、オレは今、久々のアイスに夢中になっているからたいして耳には入ってこなかった。





 アイスをコーンまで喰い尽くしたオレはふと気付いた。

 やべっ……こんなアクションになるくらいだったら事前に交渉しとけば今晩の宿賃くらいはせびれたかな。

 いまさら後悔するオレだった。



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