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アツアツの鉄板がでーんと置かれる。
じゅうじゅうという至高の福音が鳴りやむことなく続いていた。
ごくり。
「じゃ、まずは食べてからにしようか」
がつがつがつがつ、がつっ!!
「……って、もう食べ始めてる!?」
同席者への配慮とか礼儀とかなんぞどうだっていいからオレは食う。
つーか、もう喰い終わったし。
「なぁなぁ、おかわりしていいよな! すみませーん、このスライスドラゴン御膳とミノタウロスも大好きなカツ丼を一つずつ」
「もう、好きにしたらいいと思うよ…………」
がっくりとうなだれる青年――ふっ、オレの勝利だな。美味しさのあまりに涙が出てくるぜ。
――オレたちは場所を移して、ステーキハウスにやってきていた。
このサガっていうゲームに冠されている異文化交流という言葉には嘘偽りなくて、こっちでは日本食は珍しかったりする。そのなかでもオレの泊まっていたような安宿の食事というのはクソマズイ。美味しいものを食べたかったのなら、桁が二つ三つは違っている高級店にいかないと望めないんだよな。
ぱさついていて味気のないイモやパン、お米に対して謝れと言いたくなってくる牛乳漬けのご飯。
ここ最近はそんなものばっか喰ってきたオレにとっては奢ると言ってくれた怪しい青年は神様みたいなもんだった。
ドレスコートとかのない店の中ではまぎれもなく最上級の店――周囲を見回してみたって、オレみたいに、初心者装備をしているヤツなんかはいないところ。
なのに好きなだけ頼ませてくれるとは、涙が出る。
こんなところで奢ってくれるのならこれから青年のことは先輩と呼ぼう。
「満足できたかな?」
「おー、たらふく喰ったしもう食べられねーよ。ごちそうさん」
聞き覚えのない果実のジュースで口の中の脂を洗い流しながらそうお礼を言っておく。
敬語とかじゃなかったけど、この男はそんなことを気にするようなヤツじゃないだろうからかまわない。
「だったらコレの説明をしてもらっていいかな?」
「ああ、ウィンドウのことか。いいぜ、なんだって聞いてくれ」
オレ用にカスタマイズしているウィンドウは、お代りを食っている間に確かめられるように他人にも触れられて一部は操作できる設定にして渡してあった。
興味深そうにいろいろやっていたからもうだいぶ機能は把握されているんだろーな。
まぁそんなに時間かけていじくったやつじゃないからどんなに知られたってかまわないんだが……
つーかなにに喰いついたのかよくわからんよ、オレには。
ウィンドウは新規に実装された機能ってわけじゃないからこっちじゃ三年前からあるはずなんだしよー。
オレのやっていた使い方くらいとっくに広まっていそうなんだけどどうなってんだ?
……そこんところどうなんだ、先輩?
「まず一番最初に聞いておきたいのは――どうやって、今そこにいない店のメニューウィンドウを表示させているのかな?」
「そりゃあ<リンク>させているからだろーが。同じ街ン中なら有効だぜ?」
がくっと先輩がテーブルに突っ伏した。
先輩の分の皿は片付けられているけどオレが喰い散らかしたときに飛び散った油があるんだが。
……このイケメンフェイスが汚れるぶんにはかまわないか。
「いやさ、君はわかっているのかな」
「なにが?」
「これが僕たちみたいに店を構えている人間にとってはどれだけ仕入れにかかる手間が省ける機能かっていうこと」
「知らねーよ、んなもん」
店どころか土地すら借りられなくなった貧乏人には関わり合いのないことじゃね、そんなの。
だからさ、その変人を見るような目つきはやめてくれよ。頼むから。