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隣町に荷物を運ぶという、ゲームによくある依頼を受けてみた。
狼っぽいのに襲われてこわくなったから逃げた。自分が情けなくなったね。
……荷物とレンタルしていた馬車を全額弁償することになって一カ月分の生活費がなくなったしよ。
戦闘には向いていないってわかったから生産職に転向しようと頑張ってみた。
空き地を畑にするっていうクエストがあったから一生懸命にクワを振るったよ、汗だくになるまでな。
……芽吹かなかったよ、なんでだ。努力は報われることなく汗と土地代と種の代金だけが出ていくことになっちまった。
三カ月――ゲーム内は3倍に加速されているからリアルでは一カ月たったとき。
つまり、今のオレ、はホームレス同然になっていた。
いや……考えたくないけど、ホームレスってのは最低限暮らしていくための道具を持っているもんだからオレはそれ以下か。
宿屋に泊まれるぎりぎりまでねばるんじゃなくて数日はやめにチェックアウトして野宿の必須品を買い求めるべきだったんだろうな。
いまさら後悔してしまう。
いろいろとやって、小さい稼ぎはいくつかあったけど、大きいミスを2回したときの出費は致命傷になった。
戦闘職だろうと生産職だろうと、なにか働くとなれば準備をするのにお金がかかるもんだ。
それをまともに用意できなくなったオレはまともに仕事を選べなくなった。
喫茶店のバイトをしようにも制服代を払えなかったんだ……
不得手を考慮せずにとにかくできるクエストを選んでいったら失敗も多くて、赤字になることも多々あった。
初期アイテムだった拳銃を失ってからは棍棒片手にモンスターに立ち向かい、返り討ちにされ。
マニュアルを買わずに鍛冶に手を出してはインゴットを鉄くずに錬金していった。
で、落ちるところまで落ちぶれた。
もう晩飯を食うための金すら手持ちにはなかった。
ウィンドウをこの街にあるショップの買取一覧にリンクさせてみるが、二束三文になるものしかない。
ときたまアイテムの相場は変動することがあるから期待したけどダメだった。
このゲーム、変なところをリアルなもんで価値のないものを売ろうとしたら1Gにもならなく逆に処分代金をとられるからなー。
普通に売れるものはとっくに売りつくしているしよ。
どうしたものか。
オレは死に戻ることをひそかに覚悟した。