第64話 襲撃
「ううーん・・・」
「た、拓真君・・・。悩んでても仕方ないよ?」
「そうですよ。それにご主人が悩むことでもありません。諏訪スタもスズメーズも本来の担当が考えるべきことですよ」
高島城から大豊庵への帰り道。
俺は頭を抱えていた。
諏訪スタの増築はともかく、スズメーズの強化については実は良いアイディアがある。
しかしスズメーズの強化にはメンバーの人数を増やさなくてはいけない。
メンバーの人数が増えるとどうしても年俸が増える。
その増えた年俸を今のスズメーズに支払うことができるだろうか?
「ううーん・・・」
悩ましい。
ああ悩ましい。
でも・・・。
なんだか楽しい。
まるで野球ゲームで野球チームを経営するモードみたいだ。
いやこっちは現実なので、楽しんでばかりいられない。
「! ご主人下がって!!」
田んぼのあぜ道を歩いていると突然菊花に止められた。
「ど、どうした菊花?」
「前から人が歩いてきます」
「? うんそうだな」
確かにこちらに歩いてくる人がいる。
今日は生憎の曇り空で顔は見えない。
どこかで見たような気もするけど、思い出せない。
「それがどうした?」
「彼女から敵意を感じます。ボクの後ろに隠れてご主人」
敵意?
これまで触ってこようとかセクハラしようみたいな女性は多く見られた。
しかし俺に危害を加えようとする人間はいなかった。
この世界の女性は男性に危害を加えることを極端に嫌う。
貴重な男子を減らすような行動を取る女はここ500年で排除されており、その事実は遺伝子レベルの記憶として組み込まれているようだ。
それなのにこちらに敵意とは穏やかじゃない。
「そこの人!!止まりなさい!あと1歩でも近付けば排除しますよ!」
声に反応したのだろうか?
目の前の女性の足が止まる。
うん?
あれ?
こいつって・・・
ちょうど雲の切れ間で月明かりに照らされる女。
それは前に北条からやってきて大暴れしたペンギンおばさんその人だった。
「え?」
なんでペンギンがこんなところに?
てか真田領は出禁になったはずでは?
「あなた荒川マリア氏ですね!こんなところに何をしに来ました!?」
「・・・・・でやる」
「え?」
「死んでやるザマスウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!!」
いきなり暴れるペンギンは速やかに菊花に制圧された。
「ふぐうううううううう!!!!ふぐううううううう!!」
「ど、どうしたペンギン!?気は確かか!?」
「お前の!お前のせいでええええええええええ!!!」
バタバタ暴れてるペンギン。
よく見ると薄汚れており髪はボサボサ、しかも格好は変なジャージみたいな服だった。
前は身なり良く、豪華と言うか成金みたいな服だったと思うんだけど。
「俺のせいでなんだっていうんだ!?」
「お前のせいでボクちゃんが奪われたザマスゥゥゥゥ!!ボクちゃーん!!ぶおーん!!!死んでやるザマスウウゥゥ!!」
「ボクちゃん?」
ボクちゃんってあのアメンボか。
そういえば前に聞いた気がする。
前の事件の責任を取ってアメンボが北条預かりになったって。
ペンギンも北条の地位を追われて・・・って言ってたけど、いざ見てみると心が痛む。
考えてみれば俺はペンギンには何もされていない。
アメンボは真田藩民に暴行してるし、あの取り巻き女達は俺を攫おうとしたが、このペンギンは何もしていないのだ。
それなのにあの取り巻き女達のやったことまで責任を取らされたというのならそれは理不尽なこと。
ぐぎゅうぅぅぅ
ペンギン女の腹が盛大に鳴った。
ロクに食べることすらできていないのだろう。
「ご主人!早く通報してください!コイツ体重が重いのでそろそろ絞めないと抑えてられませんよ!」
菊花軽いもんなあ。
140cmくらいしかないし。
「落ち着けペンギン」
「お前の!!!お前のおおおおお!!」
「だから落ち着けってそれより・・」
できるだけ穏やかな声で語りかける。
「腹減ってないか?」
―――――――――――――――――――
「うぐううう!!!はぐうううう!!美味しいざますうう!!美味しいザマスウウウ!!!!」
目の前には鼻水ダラダラ垂らしながら蕎麦を啜るペンギン。
すでに三杯目だ。
「そっかー・・・ 苦労したんだなお前・・・」
「この間の旅行だって本当は私とボクちゃんだけで来るはずだったザマス!!それをあの女共が無理矢理ついてきた挙句にあんな問題起こして!!どうしてその責任を私が取らないといけないザマスか!!そんなの知らんザマス!!!」
保護者と認識されてしまったらしい。
しかもこれまでにこんなことが何度もあったそうで、そのせいで各所を出禁になり、もはや真田くらいにしか来られる場所がなかったとのこと。
いくら注意しても何も聞かず、好き勝手なことをしてアメンボに悪いことばかりを教え込む女共。
あの女三人も相当お偉いさんの娘だったそうで、かなり詰められたそうだ。
この人は何も悪くないのに。
その挙句北条追放。
他の領も出禁になっている場所が多かったそうで、真田くらいにしか来られる場所が無かったらしい。
「ううううぅぅぅぅ・・・・ うううぅうぅぅ・・・」
ペンギンはさめざめと泣く。
「さて、もういいでしょうご主人?そろそろ警察を呼びますよ」
「待て菊花」
「いい加減にしてください!こちらは被害者なのに食事まで与えたんです!それを・・」
「だから待て!」
菊花に一喝した。
菊花は信じられないといった目でこちらを見てくる。
「彼女は俺に危害を加えようとしたか?」
「・・・・・・・・いえしていません」
『死んでやる』とは言っていたが『殺してやる』とは言わなかった。
それにペンギンは凶器も何も持っていない。
最期に恨み言だけ残して死ぬつもりだったのだろうか。
「このままこいつを警察に突き出すとどうなる?」
「・・・・・本来は北条に強制送還でしょうが」
「追放されている人間が強制送還されたらどうなる?」
「・・・・・・・・・・・・・」
菊花は何も答えなかった。
恐らく俺の想像通りなのだろう。
「菊花。俺のことを心配してくれるのは嬉しいしありがたい。だけどそのために他の人がどうなろうと知ったことではない、ではダメだ」
「・・・・・・申し訳ありませんご主人」
菊花は頭を下げた。
「いや菊花の立場ならそれが正しいんだと思う。こっちこそ大きな声を出してごめんな?」
「・・・・ボクのことを怒っていないのですか?」
「怒ってない。むしろいつもありがたいって思ってるよ」
頭を撫でると菊花は一瞬ビクッとしたがすぐに嬉しそうに身を委ねてくれた。
短い黒髪は美しく、絹のようで触り心地が良い。
「さてペンギン」
俺はペンギンに向き直る。
「・・・・・・なんザマスか?というかさっきからペンギンってワタクシのことざますか?」
「そうだ」
これに関しては某畜ペンに体型がそっくりなコイツが悪い。
「お前は行くところがないってことでいいのか?」
「・・・・・そうザマス。しばらくは縁戚を頼っていたザマスが北条を追放された以上もうどこにも行くところなんて無いザマス」
「前に言ってた気がするんだけど、北条では内政を取り仕切っていたとか?」
「そうザマス。ワタクシは北条の最高学府を首席で卒業したエリート!!それなのにアイツらは・・あいつらはあああ・・・!!!」
どうやら目の上のタンコブだった模様。
それで今回の騒動に乗じて追い出されたということらしい。
「なあペンギン」
しかしこれはちょうど良い。
北条で内政を取り仕切るほどのエリート。きっと役に立ってくれるはずだ。
「ちょうど人手不足の職場があるんだけど行ってみないか?」




