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影の航空機━ノベライズ━  作者: 紫 和春


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第54話 このありさま

 エミュー隊の隊長機は、その高出力のエンジン馬力を使って敵機集団の中に突入していく。

 その速度は、レシプロ機としては高速度に相当する時速450kmを維持していた。


『くはははっ! もともと高出力のエンジンを、さらに馬力が出るように魔改造してある! これで敵が来ようとも怖くない!』

『た、隊長! 待ってください! いくら何でも速すぎです!』


 そのように呼びかけるのは、同じエミュー隊の僚機である。


『馬鹿野郎! さっさと敵を蹴散らかさないと未成年の目立ちたがり屋どもが来ちまうだろうが!』


 そのまま速度を落とすことなく、改造された後付け機銃で敵機を狙う。海面すれすれを飛行する敵集団のうち、1機を撃墜する。


『それ見ろ! 俺一人でも何とかなるぞ! あんなガキどもに本物の軍用機なぞ与えるのが間違っているんだ!』


 そういって4Gギリギリの急旋回を行う。


『ぐぅ……! 耐えろぉ……!』


 さすがの高負荷に、機体がミシッ、ミシッと嫌な音を立て始める。

 それでも旋回を成功させ、敵集団の後ろを取った。その頃合いに、エミュー隊の僚機が敵集団と会敵する。


『挟み撃ちするぞ! しっかり狙えよ!』


 無茶な指示を出し、隊長はさらに追い打ちをかける。

 しかしそれで黙っている敵ではない。集団が真ん中で二手に分かれたのだ。


『何!?』

『うわぁ!』


 エミュー隊は射撃できずにお互いにギリギリのところですれ違う。

 一方の敵集団は4つ、8つへと分割していき、最終的には数機の部隊が10個ほどを作り上げた。

 そのうちの2個部隊がいまだ単機でいる隊長に襲い掛かる。


『クソッ! だがこっちにはこいつ(エンジン)がある! 簡単には付いてこれねぇぞ!』


 そういってスロットルレバーをさらに前へと押し込む。エンジンに搭載された過給機が唸り、通常よりも多めの燃料がシリンダー内部へと送り込まれる。それと同時に、エンジン冷却液がさらに流量を増す。

 WEP(戦時緊急出力)という状態だ。エンジンの回転数が上がり、さらに増速できる。

 それを駆使して、隊長は敵機を引きはがそうとする。徐々に距離が離れていく。

 しかしそれだけである。旋回して反撃をするには距離が近すぎであり、かといってこのまま数十分もエンジンを酷使し続けるのも無理だ。

 そして気が付けば、僚機は隊長の後方10kmのところで戦闘を行っていた。自分の機体の性能を過信し、独断専行していたのが仇になった。

 さらに悪いことは続く。先ほどから敵機との距離が開くどころか縮んできているように見える。このままでは敵の射程に入ってしまう。


『畜生……! 畜生!』


 すでにエンジンの温度は危険域に入っており、このまま酷使すれば最悪過熱でエンジンが壊れるだろう。

 そして敵機からの試し打ちと思われる射撃も飛んでくる。


『こうなったら! こうなったらぁ!』


 道連れにするしかないという、最悪な想像が脳裏に浮かぶ。そしてこの極限状態で、それが最適解であると認識してしまう。

 隊長は今一度操縦桿を強く握り、覚悟を決めた。

 その時である。

 敵の数機が射撃で炎上したのだ。


『こんなところで特攻まがいの行動はしないでください。我々は民間から集められた飛行隊なんですよ?』

『そーそー! もっと仲間を頼ってさー!』

『そんなに死にたいのなら、もっと楽な方法があるよ~』


 梅香隊が到着したのだ。敵機は狙いをエミュー隊隊長から梅香隊に変えたようで、進行方向を変える。

 それでも梅香隊は冷静である。


『ナーちゃん先輩、捻りこみお願いします』

『任された~』

『アタシは囮だー!』


 浜口が囮となって上昇し、その間に岡井が旋回性能を活かして敵機に攻撃を仕掛ける。その岡井の攻撃を躱そうとした影を、加藤が狙い撃ちにする。

 すでに合わせて5機を墜とされ、劣勢となった敵機は海面すれすれまで下りる。そしてそのまま南下していった。


『逃げる気ですね。浜口先輩、ナーちゃん先輩、追いかけますよ』

『いや、深追い無用だ』


 そこに割って入ってきたのは、T-2を操縦する中里だ。


『連絡が来ているが、プロキシマ・ケンタウリの飛行場としての能力は奪ったようだ。あいつらは帰る場所を失ったと言ってもいい。放っておけ』


 その時には、エミュー隊の隊長はアドレナリンの大量放出の反動でもぬけの殻のようになっていた。


『あー、エミュー隊の隊長さん、だったか? あまり我を出すのはよくないぞ。彼女たちを見習ったほうがいいんじゃないか?』


 その一言で、隊長の心は完全に折れたらしい。よろよろと機体が揺れていた。

 そして山部島の方向へと進路を変えていた。


「大丈夫ですかね? 彼……」

『まぁ、なるようになるだろ』


 すると、別の民間飛行隊から通信が入る。


『お、援護要請だな。そんなに遠くはないらしいから、梅香隊の諸君、いけるか?』

『いけます』

『おっけー!』

『問題な~し』


 そうして梅香隊は次の戦闘空域へと向かう。

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