8話
何処を見ても、暗がりの色んなところからお化けが出て来そうな気がして、涼介は限界を感じた。
あ、これダメなヤツ…
「えーた、起きてる?」
ついには弟に声を掛ける始末。自分でも情けないとは思うが背に腹は代えられない。眠るためだ…
上の方からうっすらと明かりがもれている。が、弟から返事はない。仕方なく、というか素早くロフトの梯子を登り上の様子を窺う。
電気スタンドの下、本を広げてうつ伏せで読む弟の姿があった。
「なんだ、起きてんじゃん」
「…何…?」
涼介の声に反応しながらゆっくり本をとじた。
よく見るとそれ俺のじゃん…
「あのー、俺もここで寝ていい?」
「は?イヤ」
躊躇なく頭を振る弟に、涼介は食い下がる。
「ですよね、でもそこを何とか」
「…何で?」
「実は…」
事の顛末を早口でまくし立てたあと、しばらく無言が続いた。
いたたまれない空気にやっぱいいや、と涼介は言おうとした。
よくよく考えると弟からすればこんな兄を見たい筈もない。ともすれば呆れられる。いや、確実に。
そう思っていると「いいけど…」と聞こえた気がした。
「え?…今なんか言った?」
「…っから、!ここで寝れば、俺は下行く」
「いやいやいやいや、それじゃあ意味ないから。居てここに、お願いっ!」
「…………わかった」
弟の横にせっせと布団を敷く涼介。
ギリギリまで近寄らせる。
文句を言いたそうにこちらをみる目は気づかないふりをした。電気を消されさっさと布団に入る。
しかしまだロフトを降りる側が見れない。涼介は反対側を向いて横向きになる。弟は壁側を向いていた。暗闇の中ぼんやり浮かぶその背中を涼介は見つめる。
「………」
「……えーた、」
「……何」
「俺の後ろ見張ってて」
「…あほか。…付き合ってられね」
「マジで、一瞬見るだけでいいから」
「…」
不意に振り向き涼介、というか背後を見て、また元の姿勢に戻る。
「見たけど…」
「居ないよな」
「何が…?」
「…何か」
「そーいえば、何か見えたな」
「えーた嘘は」
「嘘じゃない」
その言葉にババッと涼介は弟の布団に被る勢いで端に、すぐそばに寄った。
「…オイ」
「…」
むりむりむりむり、と内心叫ぶ涼介。
「えーた、何か喋って」
「…」
「お願い、………何か聞こえたらどうしよう」
「…」
涼介の耳に深くため息を吐く音が聞こえた。目をぎゅっと閉じていた涼介は瞼を少しだけ開けた。
見えていた背中がふいに動いて涼介の方を向いた。そろそろと視線を上げ涼介は弟の顔を見た。
「何もいねえよ」
「えーた」
「いいから、目瞑れば。ねろ」
俺も眠い、と言い目を閉じる。
「待って、寝ないで」
「…」
目を開くと、涼介の方に手を伸ばしてきた。
耳に手のひらを置く。
耳を塞いでくれてるようだ。触れた場所から熱がじんわりと伝わり、冷えた耳を温める。
そんなつもりはないだろうが、涼介はだいぶホッとした。
「ありがと」
「いーから、ねろ」
半目で睨まれる。
それも怖くはない。涼介は笑みをうっすら浮かべ大人しく目を閉じた。
自分の呼吸音が耳の中で響いて耳に置かれたままの手を意識すれば、落ち着いた。
ストンと涼介は思っていたよりも早く深い眠りに落ちた。




