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香る、橙  作者: 真砂木
13/17

13話

 帰り道、涼介はなるべくいい方向へ考えようと意識した。


 まずは落ち着いて話そう。

 早いとこ話してなんとか元通りに…、

 出来ればこの機会に、空いた距離が少しでも埋まればいい。

 もう帰ってるかな…

 足早に自分の部屋に辿り着いた。

 が、そこに弟の靴はなかった。

 …まだ、帰ってない……


 ――それから時間は過ぎて、涼介は今か今かと眠気と戦い笑一太を待っていた。

 ―いつの間にか、気づくと涼介は座ったまま眠りこけていた。


 真夜中、メッセージが届いた。

 その音に涼介は素早く起きて画面を見る。

 "今日はダチの家泊まる"


 深いため息をついてもう一度、目を閉じた。



 ――翌朝

 起きて涼介はまず、瞼の裏の違和感を感じ取った。

 起き上がると、なんだか目の奥が重くて痛い。

 頭痛…、朝っぱらからなんて日だ…、薬のも

 そう思い立ち上がって歩くと何だか目が回る。

 どうやら熱もあるらしい、涼介がそう自覚すると一気に寒気と怠さが襲ってきた。

 ヨタヨタとリビングへ行き、薬を摂ろうとした時、玄関を開ける音がした。


 ――えーた…?


 ゆっくり振り返ると、きまり悪そうに立つ笑一太がそこに居た。


 涼介は何だかんだ帰ってきた弟に微笑んだ。

 「おかえり…」

 心配したぞ、と涼介が言おうとした時、笑一太が言った。

 「考えたんだけど…俺、やっぱ出てく。自分で住む場所探す。荷物は、一応持てるだけ持って残りは…部屋、決まり次第取りに行く、それまで置いといて…」


 …、出てく……?

 涼介は熱でぼんやりする意識の中、とりあえず笑一太を引き留めようとした。


 「おい、まて…えーた」


 笑一太は手にしていた段ボールの箱をロフトへ投げ入れる。


 「一応…部屋決まるまで、知り合いの家に居るから」


 そう言いながら梯子を登ろうとする笑一太に、涼介はやや朦朧としながらも、その手首をつかんだ。


 掴まれた手の熱さに、笑一太は驚き、反射的に涼介の手を振り払った。

 「わり、…てか何か…、熱」

 やや目を丸くして涼介を振り返る。


 「……ぅ、(だめだ…、)」

 笑一太と話したいのに、目がまわり、その場に立っていられず座り込む涼介。その姿を見て、笑一太はやっと涼介の体調が優れない事に気付いた。

 「…おい、」

 「……」

 笑一太は少し触るぞ、と伝え、目を閉じる涼介の手首を取ると、脈をはかる。

 ついでにおでこ、頬、首に触れ、「薬は?」と涼介に問いかけた。

 「まだ…」

 笑一太は舌打ちし、どこ?と余裕なさげに涼介に訊いてくる。

 涼介は開けっ放しの引き出しを指さす。


 「横になってろ」

 笑一太に言われ、涼介は気合で立ち上がりふらふらと自分の寝床へ倒れ込む。


 …手、冷たかった。出てくって、なんでえーた。考えたって、何を…?

 茹だった頭で涼介はそんな事を考える。


 ガサゴソと漁る音がしてしばらく、涼介の前に水が差し出された。

 それを手に取ろうとしたが、力が入らない。

 ふいに水さげられ、しかしすぐに、ストローが付いた水を差し出してきた。涼介の口元まで近づける笑一太に、有り難く一口飲む。今度はパウチのゼリーを突き出される。

 涼介は与えられるまま、口をつけた。渡された薬を水で流し込む。

 「もっと飲め」

 と言われ、涼介はもう一度ストローへ口を近づけた。



 「寝てろ」

 そう言って立ち上がる笑一太を涼介は何となく目で追う。

 見えなくなって、水音がした。

 戻ってきた笑一太に、濡れたタオルを額にのせられ、気持ちよくて目を閉じる。

 「えーた、…ありがと」

 毛布を掛けられ、その上から更にえいたのだと思われる毛布も追加される。

 ちょっとだけ寝苦しい…、温かいけど。

 涼介がそんな事を思っていると、不意に聞こえた声。

 「…、ごめん」


 熱のせいか、笑一太が何に謝っているのか、涼介にはわからなかった。


 しかし今笑一太に言いたい、伝えたい事があった。


 ごめん…、本当は俺がお前と…なかよく…ただ、いたい…、ありたいだけ


 えーたが考えてることが知りたい。

 何でここから出ていこうとすんだよ…?俺は出ていって欲しいなんて思ってない。お前が…俺のこと、嫌なんじゃないのか…


 違うなら…、えーた…出ていかなくていい、ここに居ていい


 熱に浮かされながら、ぐるぐるとそんな言葉が頭をまわった。


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