13話
帰り道、涼介はなるべくいい方向へ考えようと意識した。
まずは落ち着いて話そう。
早いとこ話してなんとか元通りに…、
出来ればこの機会に、空いた距離が少しでも埋まればいい。
もう帰ってるかな…
足早に自分の部屋に辿り着いた。
が、そこに弟の靴はなかった。
…まだ、帰ってない……
――それから時間は過ぎて、涼介は今か今かと眠気と戦い笑一太を待っていた。
―いつの間にか、気づくと涼介は座ったまま眠りこけていた。
真夜中、メッセージが届いた。
その音に涼介は素早く起きて画面を見る。
"今日はダチの家泊まる"
深いため息をついてもう一度、目を閉じた。
――翌朝
起きて涼介はまず、瞼の裏の違和感を感じ取った。
起き上がると、なんだか目の奥が重くて痛い。
頭痛…、朝っぱらからなんて日だ…、薬のも
そう思い立ち上がって歩くと何だか目が回る。
どうやら熱もあるらしい、涼介がそう自覚すると一気に寒気と怠さが襲ってきた。
ヨタヨタとリビングへ行き、薬を摂ろうとした時、玄関を開ける音がした。
――えーた…?
ゆっくり振り返ると、きまり悪そうに立つ笑一太がそこに居た。
涼介は何だかんだ帰ってきた弟に微笑んだ。
「おかえり…」
心配したぞ、と涼介が言おうとした時、笑一太が言った。
「考えたんだけど…俺、やっぱ出てく。自分で住む場所探す。荷物は、一応持てるだけ持って残りは…部屋、決まり次第取りに行く、それまで置いといて…」
…、出てく……?
涼介は熱でぼんやりする意識の中、とりあえず笑一太を引き留めようとした。
「おい、まて…えーた」
笑一太は手にしていた段ボールの箱をロフトへ投げ入れる。
「一応…部屋決まるまで、知り合いの家に居るから」
そう言いながら梯子を登ろうとする笑一太に、涼介はやや朦朧としながらも、その手首をつかんだ。
掴まれた手の熱さに、笑一太は驚き、反射的に涼介の手を振り払った。
「わり、…てか何か…、熱」
やや目を丸くして涼介を振り返る。
「……ぅ、(だめだ…、)」
笑一太と話したいのに、目がまわり、その場に立っていられず座り込む涼介。その姿を見て、笑一太はやっと涼介の体調が優れない事に気付いた。
「…おい、」
「……」
笑一太は少し触るぞ、と伝え、目を閉じる涼介の手首を取ると、脈をはかる。
ついでにおでこ、頬、首に触れ、「薬は?」と涼介に問いかけた。
「まだ…」
笑一太は舌打ちし、どこ?と余裕なさげに涼介に訊いてくる。
涼介は開けっ放しの引き出しを指さす。
「横になってろ」
笑一太に言われ、涼介は気合で立ち上がりふらふらと自分の寝床へ倒れ込む。
…手、冷たかった。出てくって、なんでえーた。考えたって、何を…?
茹だった頭で涼介はそんな事を考える。
ガサゴソと漁る音がしてしばらく、涼介の前に水が差し出された。
それを手に取ろうとしたが、力が入らない。
ふいに水さげられ、しかしすぐに、ストローが付いた水を差し出してきた。涼介の口元まで近づける笑一太に、有り難く一口飲む。今度はパウチのゼリーを突き出される。
涼介は与えられるまま、口をつけた。渡された薬を水で流し込む。
「もっと飲め」
と言われ、涼介はもう一度ストローへ口を近づけた。
「寝てろ」
そう言って立ち上がる笑一太を涼介は何となく目で追う。
見えなくなって、水音がした。
戻ってきた笑一太に、濡れたタオルを額にのせられ、気持ちよくて目を閉じる。
「えーた、…ありがと」
毛布を掛けられ、その上から更にえいたのだと思われる毛布も追加される。
ちょっとだけ寝苦しい…、温かいけど。
涼介がそんな事を思っていると、不意に聞こえた声。
「…、ごめん」
熱のせいか、笑一太が何に謝っているのか、涼介にはわからなかった。
しかし今笑一太に言いたい、伝えたい事があった。
ごめん…、本当は俺がお前と…なかよく…ただ、いたい…、ありたいだけ
えーたが考えてることが知りたい。
何でここから出ていこうとすんだよ…?俺は出ていって欲しいなんて思ってない。お前が…俺のこと、嫌なんじゃないのか…
違うなら…、えーた…出ていかなくていい、ここに居ていい
熱に浮かされながら、ぐるぐるとそんな言葉が頭をまわった。




