10話
あれから、弟との距離感が少しだけ変わった。
変わったと言っても、ちょくちょくメッセージでやり取りするようになったとか、ご飯をたまに涼介の分まで作り置きしてくれるといった具合で、後は相変わらずだ。
それでも涼介にとっては大きな前進でもあった。
あのままの状況が続くよりも、今の方がずっといい。
そんな日常が数日続いていた、ある夜。
部屋の中で涼介が読書していると、ドタドタと大きな音と人の声が部屋の前まで近づいてきた。
…、酔っ払いか…まさか
インターホンが鳴った。
ああ、と涼介は嫌な予感が当たった事にため息をつきたくなった。
「………、ハイ」
ドアを開く。
「あ、スミマセーン!どうも、えいたの先輩クニミでっす、えいたくんをお届けに来ました!あっもしかして〜、これが噂のお兄さん?おい、えいたー」
「(うわさ…?)どうも、弟がお世話になってます」
「うわ、ウケる。お前に全っ然似てねえの。」
「だまれ、かえれ」
肩を組んでいた相手を笑一太は引き剥がして突き放した。
「おい、おい。ぶっ倒れるぞ、つかまれよ。すんません、お兄さんお邪魔します」
「いや、悪いんで俺、代わります」
「いいっすか、おねしゃす、じゃーな明日ぜってー遅れんなよ」
と、笑一太の背を叩くと帰っていった。
座り込む弟を見ると、涼介は水を取りに行ってコップに入れた水を持って隣にしゃがみこんだ。
「お前、こんななるまで呑むなよ。つっても仕方ないか…まだガキだもんな…」
「…、が…じゃね」
「は、何?水か…」
「…、ガキ扱いすんな」
「まだ、ガキだろ…無理すんな。ほら水」
受け取った水を一気飲み干した笑一太は、涼介の腕をつかむと完全に座った目でメンチをきってきた。
「なに…」
酔ってんな、と思いながら涼介は弟の赤く染まった瞳を見返した。
すると、急に頭を両手でガシッと掴まれた。
は?と気を抜いていた涼介は容易く引き寄せられる。笑一太の顔が近づいてきて、ぶつかる、と涼介は目を咄嗟に閉じた。
が、衝撃は口元に来た。
「んム゛…!」
痛い、え、何で俺いま、えーたとマウストゥーマウス…
涼介の脳内が混乱していると、笑一太が顔を離し、笑った。
「はっ、いてえ…もっかいやり直す」
――何言ってんだコイツ…
仄かに酒の匂い感じながら、涼介が放心状態でいる内に、また二度、三度とバードキスを繰り返し、口元や頬、こめかみにまでされてやっと涼介は弟の頭をボコンと殴った。
「ってぇ…ッ…!」
「、えいた」
「あ?」
「お前、今日はそこで寝ろ。入ってくんなよ」
それだけいうと、涼介は部屋の奥へ消えた。
笑一太はそのまま玄関先で一夜を明かした。




