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【転】の章④

「その計画って?」と問うと、「いわゆる囲い込み作戦じゃよ」という言葉が出て来た。「既に魔王は、勇者やその一行が幾たび斃れようと、神の如く復活する身であると理解しておる。では殺すのではなく、力を吸い取ってしまおうと企んだわけじゃ。

勇者である御主に対しては、まず仲間を分散させ、孤独や寂寥感、無気力、自信喪失を与えてしまう。予想外に、仲間にも霧の呪いはかけられて、より一層の拍車がかかった。さて、勇者殿には失礼だが、御主は元々気弱なタチで、己に対して過小評価をする嫌いがあると見えて、独りでは行動に移すことも一苦労じゃろう。仲間がいなければ不安で堪らなくなる」

僕は見事に見抜かれ、ただ「——はい」と答えるしかなかった。

「まあそうじゃろうのう。魔王は、勇者の意思や性格をよく探り、心理的作戦を遂行しておるというわけじゃな」

そういえば、王が失踪した三週間前は、僕らが旅立つ頃と被る。何もかもこっちの行動、心理を読んでいたというわけか。

と思うと、やっぱり僕は勇ましくもなんとも無く、恥ずかしさでいっぱいになった。

「今日、急にタルノが民衆に襲われたことにはどんな意味があるんでしょうか?」

老神父は、目をぱちくりさせた。どうやらそこまでは知らなかったらしい。

「ほほう、ということはヤッコさんどもは痺れを切らしたのかのう。たとえ御主らを殺せなくとも、魔物どもは勇者を亡き者にしたくて仕方がないはずじゃからのう。今日は何かのきっかけでも与えてしまったんじゃないのかね?」

老神父は、自分の推理が的を射ていると思ったか、少しウキウキした様子に見えた。

悔しいがその通り。きっかけといえば、当然あの噴水での出来事だ。痺れを切らした呪われた民どもは、僕をとりあえず殺すことを思いつき、また道場の血気盛んな連中も、僕と出会い、勢い監禁しようと迫って来た。

もうこれからは、こちらを窺うような生優しい素振りなど見せて来ないだろうな。彼らにはスイッチが入っちゃったんだから。

それを僕が神父に確認すると、彼もこくりと頷く。

「今や血の気の多い民は、御主を探すことだけに躍起になっているはずじゃ。東西南北四方の大門は閉ざされ、表にも出られはしまい。その聖域魔法がなければ、何度も彼らと戦闘になるであろう」

さすがに街の人々を倒すのは気が引ける。というか弱っちい自分が勝てるとも思えない。といっても降参などできるわけがない。魔王討伐をしなくて済むならそれに越したことはないが、彼らに嬲りモノにされるのなんてもっとゴメンだ。

じゃあ彼らに、もう金輪際、二度と魔王討伐など致しません! などと言ってみようか。誓約書でも何でも書くから、危害だけは加えないでくださいって乞うてみようか。いやいや、奴らがそんなに大人しく寛容だとは思えない。

芽が摘めないのなら、永遠に踏んづけられっぱなしになるだろう。

キュナはそこまでわかって、あの「何もかも終わらせる」というアイデアを閃いたのだろうか。

そして、今ここでお告げを聞こうとするというのは、確信を得たいがためなのか?

「まあ、じゃあ今後一体どうすれば良いのか、御主たちは神のお告げを聞きに参ったんじゃな」

とはいっても、キュナは次なる道を見つけているようなんだけど。カジノにある最強装備を手に入れるとか何とか言ってたし——。

「では、お告げを頂けますか?」

キュナは目を輝かせた。

「ふむ、既に神託は降りて来ておる」と老神父は息を少し吸い、「まずはこの街を脱し、北の森を目指せと出ておる。そこには人を寄せ付けぬ『黄泉の洞窟』という所がある。洞窟の奥深くには、真実の姿を映すと云われる『神の御鏡』という神器が祀られているのじゃ。その鏡はわしもよく知っておるが、どんな偽りをも、神の心眼をそのまま通し、真実の姿で対象を映し出す力があるらしい。おまけに真実を映し出すと同時に、その魔物の邪悪なる力そのものを弱体化させる効果もあると聞いておるぞ」

「つ、つまり、神様の仰ることは、その鏡を使ってルッセ15世の正体を暴けということなんでしょうか⁉︎」

僕は少し声を裏返しながら、わかっていながらの確認をした。

「まあそういうことじゃ。街は既に門が閉ざされてしまっているが、実はの、街の北、どん詰まりの路地の端にある古井戸から表に出られる地下道があるにはあるんじゃよ」

またしてもシナリオが登場した。旅もどん詰まりと思いきや、やはり魔王討伐への道はしっかり続いていたんだ。

もういい加減にして欲しい。こんなことをいつまで続ければいいんだ。平和はこんな迂回路を経てじゃないと訪れないのか。

神様は、こんな託宣を用意して、僕をどこへ導こうというのだろう。

そこで、急に隣からキュナの甲高い声。ここが教会であることなどお構いなしだ。

「神父様、私は街より西のカジノで魔王討伐に欠かせない勇者の最強装備と云われるものを発見したんです。それは、『ゴールデンメタル装備』というもので、このタルノだけが身に着けられる最強武具なんです。でも、それはとてつもなく高価で、カジノのコイン引き換えであっても、100万枚はするんです。金貨に換算してもおよそ1万枚。とてもじゃありませんけど、手に入れるのは無理です。でも教えてください。どうすれば一番の早道で手に入れられるんでしょうか⁉」

この問いに、僕も神父も開いた口が塞がらなかった。キュナの相談は、つまりは金の相談だ。神父に尋ねる内容じゃないだろう。銀行にでも行って聞いてこいと言われるんじゃないかと内心焦った。

それでも老神父は、徐々に顔を綻ばせて、薄い頭をポリポリと掻き出した。

「そうか、それは参ったのう。あれは確かに古より伝わる伝説の装備品じゃな。造ったのは、この街の名鍛冶屋オルセン家の祖先じゃ。子孫は今もいろいろと新しいものを叩いては、造っておるが、街一番の頑固者とも言われておる。仮に勇者が欲しいからって、訪ねに行ってもタダではくれまい。おまけに彼らだって、魔物に呪いを掛けられているに違いない。余計に手に入れるのは無理じゃな」

「——そうですか。そうですね、オルセン家のことは、あたしも聞きました」

キュナがしょんぼりした様子で答える。

僕にとっては、初めて聞いた話ばかりで、そんな伝説の武器防具がこの街に存在していたなんて、まずは一瞬疑ってしまった。

「あの、実はゴールデンメタル装備に関してもそうなんですが、あたしは『深緑の涙』についても知りたいんです。どうすれば手に入れられるか、神のお告げはないんでしょうか?」

また新たなアイテム名を聞いて、目をぱちくりさせてしまった。頭の整理が追い付かない。

それにしても、あれやこれやと矢継ぎ早に尋ねるのは、何だか失礼ではないのかとさえ思う。

ただ、老神父の様子は、ああやっぱりそこもか、という表情を見せた。

「あくまで神からの託宣は、『神の御鏡』の話のみなんじゃ。だが、『深緑の涙』か。オルセン家が喉から手が出るほどの欲しいアイテムじゃな。その宝玉があれば、さぞ頑強な武具が造り出せると云われる優れ物の材料なんじゃて。売るだけでも人生3回分は遊び暮らせると言われる高価で希少な代物じゃな」

「でも僕らが欲しいのは、ゴールデンメタル装備のはずじゃ——」

「お嬢さんは、同じことを言っておるぞ。カジノに収められているゴールデンメタル装備は、『深緑の涙』と引き換えが可能なんじゃ。まあ、但し——」

「そこのカジノの有名なポーカーディーラーと直接ポーカーで対決して、勝たなくちゃいけないの。もし負けたら、装備品は当然もらえず、おまけに必死に手に入れた『深緑の涙』も取られちゃうってわけね」

何だか、俗物のキュナが見せる表情とは思えないほどに穏やかに笑っている。不気味だ。

「まあ、そういうことじゃな。残念じゃが、神のお告げにはそれらのアイテムをどう手に入れるかなどという神託は無いのう」

「ちぇ、やっぱり神様もその辺は教えてくれないのね」

「キュナ、そういう言い方ってないだろ」

神の信託は、あくまで神が正統と見做した道のみ示しているのだろう。それは困難な洞窟を突破し、やっとの思いで『神の御鏡』を手にし、そして悪の正体を暴き死闘の末にそれに打ち勝つ。それが正統なシナリオなのだろう。

いきなりカジノの最強装備やバカ高い宝玉を手にするような小賢しい方法は、神に認められていないのだ。

俗っぽく短気なキュナには、最高のショートカット方法なんだろうけど。

にわかにイラつきを見せたキュナに、老神父も少し呆気にとられたようだ。それでも伝説の装備品のため、必死になって探求しようとするその心意気に感心はしたようである。

「ほっほっほ。御主たちは、表の魔物どもとはまた違った血気が盛んとなっているようじゃの。どれ、これは神託でも何でもないわしの話なんじゃがな——」

少女の瞳に光が宿るのを見逃さなかった。


次回は、12月20日頃の投稿予定です。

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