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第10話 死んだ土と奇跡の舞、そして反撃の食堂オープン

 翌朝。ボロ宿『迷い猫の寝床』の裏庭に案内された俺は、目の前に広がる光景に小さく息を吐いた。


 元・商人ギルドマスターのバルドが言っていた通り、そこは完全に死んだ土の荒れ地だった。


 地面は水分と魔力を完全に失ってひび割れ、生命の息吹など微塵も感じられない灰色の砂漠のようになっている。


 特権階級の魔法使い達が「もう雑草一本生えないゴミ土地」として見捨てたのも頷ける。通常の農法や、並の魔法使いの魔力譲渡程度では、この土を蘇らせることなど絶対に不可能だろう。


「にーちゃん、本当にこんな場所でどうにかなるのか? いくら君の腕が良くても、食材そのものが育たなければ……」


 バルドが腕を組みながら半信半疑の目を向けてくる。隣に立つ宿の少女メリルも、不安そうにエプロンの裾を握りしめていた。


 俺は何も言わず、ひび割れた大地にしゃがみ込んだ。


 そして誰にも見えないように空中で指を弾き、【食材庫インベントリ】から最後の種を取り出す。


 表面が星屑のように輝く『星砕きニンニク』。燃えるように赤い『赤炎唐辛子』。そして新たに、火を通せば極上の甘みを放つ『黄金琥珀タマネギ』と、濃厚な果汁を内包した『爆蜜トマト』の種だ。


 レオン爺さんの畑から持ち出した、これが正真正銘、最後の虎の子だった。俺はそれを、乾ききった灰色の土に等間隔で丁寧に植え付けていく。


「バルドのおっさん、メリル。俺の家族を舐めないでくれよ」


 俺が立ち上がってニヤリと笑うと、背後で待機していたルゥが「ルゥにお任せ!」と元気よく前に飛び出してきた。


 ルゥは植えられたばかりの種の前に立つと、大きく息を吸い込み、両手を胸の前でギュッと組んだ。


 彼女の身体から、淡いピンク色の愛情魔法の魔力が溢れ出し、周囲の空気がふわりと暖かくなる。


 だが、そこからルゥの取った行動は、俺の予想の斜め上を行くものだった。


 ルゥは突然、足を大きく開いて腰を落とす。そして、ドスッ、ドスッとリズミカルに地面を踏み鳴らしながら、両腕を下から上へ、大地から何かを引っ張り上げるような奇妙な動きを繰り返し始めたのだ。


「ルゥ、なんだその怪しい儀式みたいな踊りは」


「レオンのお爺ちゃんが教えてくれたんだよ! こうやって、土の神様に全身でお願いしながらお祈りの踊りをすると、お野菜がドーンって元気に育つんだって!」


 真剣な顔でズンドコと踊り続けるルゥを見ながら、俺は額を押さえた。


 足を大きく踏み鳴らし、天に向かって両腕を突き上げるその振付。


 どう見てもレオン爺さんが作った童話に出てくる、不思議な森の精霊が芽出しの時にする踊りそのまんまだ。レオン爺さん、孫娘にいったい何を教えていたんだ。


「ほう! それが人間界に伝わる、美味い野菜を召喚するための神聖な儀式だな! 我も加勢しよう!」


 俺が呆れている横で、朝から腹を空かせていたライラが目を輝かせて乱入した。


 絶世の美女であるはずの龍女神が、銀髪のケモ耳少女と並んで、真顔で「うー、わっ! うー、わっ!」と奇妙な踊りを開始する。シュールすぎる光景だが、事態はすぐに俺の常識を置き去りにした。


「美味しくなーれ! 萌え萌えキュン♡!」


「早く育って我に食われろーっ!!」


 ルゥの規格外の愛情魔法と、ライラが放つ圧倒的な神の魔力が、踊りのリズムに乗って完全に共鳴したのだ。


 足元の灰色の土が、ドクン、ドクンと心臓のように脈打ち始める。


 次の瞬間、ズバババババッ!!!という凄まじい音と共に、ひび割れた大地から極太の緑の芽が天に向かって吹き出した。


 芽は踊りに合わせるように瞬く間に太い茎となり、巨大な葉を広げ、周囲の景色を鮮やかな緑色に染め上げていく。


 星砕きニンニクが土を盛り上げて顔を出し、黄金琥珀タマネギが鈴なりに実り、爆蜜トマトの赤い果実がはち切れんばかりに膨らんでいく。


 たった数分。死んでいたはずの裏庭の荒れ地は、極上の魔力が満ち溢れる超特級の畑へと変貌を遂げていた。


「な、なんだこれは……。高位の土属性の魔法使いが何年もかけて手入れする魔野菜を、たった数分で、しかも死んだ土からだと……!?」


「うそ……おとぎ話の魔法みたい……」


 バルドは腰を抜かしてへたり込み、メリルは目を回してへらへらと笑っている。


 俺は豊穣の踊りを終えてドヤ顔をしているルゥとライラの頭を撫でながら、ずらりと並んだ極上の野菜たちを前に、包丁の柄を強く握りしめた。


「よし、最高の食材は揃った。ここからは俺の仕事だ」


 ◇


 その日の昼。ボロ宿『迷い猫の寝床』の前の路地に、急造の巨大な屋台が姿を現した。バルドの商才と人脈をフル活用して用意した、俺たちの新しい城『迷い猫の食堂』だ。


 メリルが市場でタダ同然で買い集めてきた、魔法では火が通らない『鉄殻トカゲ』の肉。


 俺はダンジョンの補助スキルで鉄の甲羅を関節から綺麗に解体し、たっぷりの『黄金琥珀タマネギ』と一緒に、醤油ベースの甘辛いタレでトロトロになるまで大鍋で煮込んでいた。


 タマネギの酵素と極上の甘みが、トカゲの強靭な筋肉の繊維を極限まで柔らかく分解していく。


 蓋を開けた瞬間、琥珀色に輝くタマネギと、箸で切れるほど柔らかくなった巨大な角煮から、脳を直接殴るような暴力的な甘辛い匂いが立ち昇った。


 さらに隣の鍋では、毒袋を完璧に取り除いた猛毒沼ガエルの肉と、酸味と旨味が凝縮された『爆蜜トマト』、そして『赤炎唐辛子』を使った特製の旨辛炒めが、炎を上げて中華鍋の中で踊っている。


 トマトの弾ける酸味と濃厚な果汁が、唐辛子の刺激を極上の旨味へと昇華させ、ニンニクの香ばしさと共に路地裏に爆発的な飯テロ臭を撒き散らした。


「いらっしゃい! 高くて味気ない魔法料理に飽き飽きしてる連中は、うちの『迷い猫の食堂』で本物の飯を食っていきな!」


 俺が声を張り上げるより早く、路地の向こうから地響きのような足音が聞こえてきた。


 昨晩の唐揚げの匂いに脳を焼かれ、一晩中路地裏を徘徊していた『飯ゾンビ』と化した特権階級の女たち。


 そして、その異様な匂いと騒ぎに引き寄せられた、一般の冒険者や商人たちの巨大な群れだ。


「ああああっ! お願い! その丼をアタシにちょうだい!!」


「俺にもだ! いくら払えばいい!? 金貨か!?」


「バカ言え、こんな美味そうな匂いの料理、金貨一枚じゃ足りねえだろ!」


 怒号と共に殺到する客たちに、俺はニヤリと笑って値段を告げた。


「角煮丼も、トマト炒め定食も、全部『銅貨三枚』だ。金貨なんて要らねえよ。俺の料理は、誰でも腹いっぱい食えるのが売りだからな」


 その破格の値段に、群衆は一瞬静まり返り、次いで爆発的な歓声を上げた。


 高飛車な魔法使いの女も、薄汚れた冒険者も、誰もがプライドを投げ捨てて俺の作った料理にがっつく。


 黄金琥珀タマネギの甘みが溶け込んだトロトロの角煮丼を口に運んだ受付の女は「アタシ、今まで何を食べて生きてきたの……」とその場で泣き崩れ、トマト炒めを食べた男たちは「美味すぎる! 体の底から魔力と活力が湧いてきやがる!」と歓喜の雄叫びを上げた。


 屋台は瞬く間に大パニックとなり、メリルが悲鳴を上げながら注文を捌き、バルドが笑いの止まらない様子で銅貨の山を麻袋に回収していく。


「ふはははは! 見ろタロウ、表通りの様子を!」


 鍋を振るう俺の背中越しに、バルドが腹を抱えて笑った。


 視線の先、表通りの一角にある商人ギルドの高級食材店。テローラの派閥が不当な高値で独占販売している『安全なだけの味気ない魔野菜』の並ぶその店には、ただの一人も客が寄り付かず、見事なまでに閑古鳥が鳴いていた。


「これで奴らの資金源は完全に絶たれた。高値で買い占めた特級食材は、数日もすれば腐ってただのゴミになる。最高の気分だ!」


 バルドの悪い笑みと重なるように、表通りを青い顔をした商人ギルドの使い走りが猛ダッシュで駆け抜けていくのが見えた。


 口の動きから察するに、「正体不明の男の料理のせいで、特使様の高級食材がゴミ扱いされています!」と、王都にいるテローラへ緊急の魔法通信を送ろうとパニックになっているらしい。


 俺は熱気に包まれた屋台の中で、額の汗を拭いながら遠くの空を見上げた。


 この宿場町の胃袋と経済は、俺たちの料理が完全に掌握した。


 高慢な金髪縦ロールの特使様が、王都のふかふかなベッドの上でどんな絶望的な報告を受けるのか、今から楽しみで仕方がない。


 いよいよ、あの傲慢な女が待つ王都への道が開かれたのだ。




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