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第一話 規格外の兄妹と、理不尽な通達

 

「ったく、この魔野菜、今年もこんなに元気でどうすんだよ」


 店の裏手にある小さな畑。


 朝露に濡れたふかふかの土の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、俺、タロウは収穫したばかりの色彩鮮やかな野菜を前に軽く溜息をついた。


 カゴの中で微かな燐光を放つそれは、育ての親であるレオン爺さんたちが遺してくれた、この畑でしか採れない「魔力を内包した不思議な野菜」だ。


 俺は別に「魔力食材」とかいう高尚な代物に詳しいわけじゃない。ただ、レオン爺さんからこの畑の土や種がなんだか特別だってこと、そしてそれを食べることで人が元気になることだけは昔から知っていた。


「兄様、早く持ってきてよ!」


 勝手口の向こう、厨房の方から妹であるルゥの元気な声が響く。


 ああ……今日もまた、あの常連の冒険者たちに頼まれているんだったな。


 俺の料理が彼らの「お守り」代わりになるって、ありがたい話だけど。本当はもっと単純に「美味い」と言ってほしくて、俺は料理を作ってるんだが。


「ああ、今行く!」


 俺は野菜がたっぷり入ったカゴを抱え上げ、木製の勝手口を開けて店の厨房へと足を踏み入れた。


 厨房のコンロでは、すでに冒険者用のシチューがグツグツと音を立て、食欲をそそる匂いを充満させている。


「悪い、ルゥ。こっちの野菜を下処理したら――オグッ!」


 カゴを調理台に置こうと振り向いた瞬間、オコジョのようなケモ耳を生やした長い銀髪が、俺の鳩尾めがけて猛スピードで突っ込んできた。


「うぅ……おい、ルゥ。いつも言ってるがな? 厨房では走るなと……」


「んしょっ! あははっ、ゴメンね兄様~。それじゃお詫びに、このお料理、もーっと美味しくするねっ!」


 謝罪もそこそこに、ルゥは額に埋め込まれたように輝く紅い宝石にそっと指を当てる。


 すると、その宝石は脈打つように、優しく力強い光を放ち始めた。


「美味しくな~れ、萌え萌えキュン♡! 愛を込めて……! 『ラブ・エンハンス』!」


 ……正直、その呪文をどこで覚えてきたのか、兄として小一時間問い詰めたい。


 だが、その効果は本物だった。


 彼女の額の宝石から、まるで愛情そのものであるかのような温かい紅い光が放たれ、すぐ傍のコンロで煮込まれていたシチューの鍋に降り注いだ。


 その光は、鍋の中の具材一つ一つを優しく包み込む。グツグツという音と共に立ち昇る香りは一気に深みを増し、肉はよりジューシーに、野菜はその甘みと滋味を極限まで引き出されていくのが目に見えてわかった。


 単なるおまじない、ではない。


 食材そのもののポテンシャルを最大限に引き出す『ブースト魔法』と呼ばれる代物……らしい。


「まぶしっ……!」


 俺は思わず顔を覆う。魔法の光が消えると、シチューはまるで新品の魔法薬のように鮮やかな照りを放ち、これまで以上に食欲をそそる芳醇な香りを厨房いっぱいに充満させていた。


「どう、兄様?」


「ああ……すごいな。やっぱりルゥの魔法は反則だよ」


「えへへ! これも、兄様のために毎日練習してるんだよ!」


 彼女は得意満面の笑みを浮かべ、額の紅い宝石を指差した。


「これが、『ジェム・マジック』なんだよ。レオン爺さんが昔、ルゥのために準備してくれたんだって~」


 ジェム・マジック。


 それは、宝石に魔力を宿し、それを触媒として魔法を発動させるという彼女だけのオリジナルの魔法体系らしい。


 中でも彼女の額にある紅い宝石は、愛情や幸福感といった「ポジティブな感情」に反応し、それらを料理に「増幅」させるという特別な力を持っていた。


「ルゥの魔法で、兄様のお料理がもっともっとみんなを笑顔にできるんだよ! それってスゴク素敵でしょっ」


 ルゥのキラキラとした蒼い瞳は、ひたすらに純粋だった。


 この世界では、男性が魔法を扱う事は滅多にない。しかし、俺達の育ての親であるレオン爺さんは多少の心得があったらしく、こうしてルゥに特別な力を残してくれた。


「それじゃ、このお鍋持っていくね!」


「あ、ああ。重いから気をつけて……って、もう行っちまったか」


「皆っ! お待ちど〜さまぁ〜!!」


「おおっ! ルゥちゃん、待ってたぜ!」


 忙しない妹は、細長い銀色の尻尾を元気よく振りながら、あっという間に厨房を後にしていった。


 俺だって、普段から農作業と厨房仕事で身体を鍛えてはいる。


 それに時折、ルゥの愛情たっぷりなタックルを受けているせいで、腹筋や内臓は村の若い衆の誰よりも丈夫な自信がある。


 でも、あの小柄な身体のどこに、あの大鍋を片手で軽々と持ち上げる筋力があるんだか。


「まぁ、いいか。さて、夜の仕込みの為に洗い物を……」


 平和で、温かくて、少しだけ騒がしい日常。


 数時間後、俺たちのこの愛すべき日常が根底から覆されることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。



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