葬式をやろう【任侠兄弟盃編】
兄貴の死体が発見されて困ってます
貸した金返さんから私が山に埋めたんやけど
土砂崩れで骨が出てしもたらしくて
私らみたいな稼業は葬儀に困るんですわ
業者が嫌がってやりたがりません
せやのに親父が
場所と坊主を用意しよったんですわ
身内と付き合いのある連中が
とある寺に集まりました
門の外ではポリもいてます
「みんな、葬儀代はワシが持つからの」
親父はそない言いますけど、嘘です
こいつ、絶対に金だしません
ええかっこ言うだけで、実際ケツ拭くのは私らです
「豪勢な葬儀で送ったろやないか」
親父がそない言うと、坊主が十数人はいってきた
アホかこいつ、どんだけ呼んでるねん
金払うんは結局私らやろがい
次はこいつの葬儀にしたろか、ほんまに
「ミュージック、スタートや!」
親父の合図で始まる軽快なBGM
聞いたことある、これは昔のマジックショーで流れてた
「オリーブの首飾り」やないか
ひときわ派手な袈裟をまとった坊主が入ってきた
立ち並ぶ坊主もいっせいにお経を唱え始めた
派手な坊主が袈裟の袖で兄貴の遺影をかくす
ババッ!
派手な坊主、身をひるがえしたかと思えば
なんと!
悲し気な表情だった兄貴の遺影が
パッと明るい笑顔に変わりよった!
パチンッ!
派手な坊主、指を鳴らしたかと思えば
なんと!
まっ白な葬儀場の花輪が
いっせいにまっ赤な薔薇と彼岸花に!
「ブラボー! ええやないか! ええやないか!」
「……親父、これは色々あかんのちゃうか」
「別にええやないか! 派手にいかんかい!」
「……まあ、好きにしなはれ」
「ああせや、香典はワシが預かるさかいな」
こいつ、ほんまクズやの
私があきれているとBGMとお経が止まり
葬儀場は暗転、ミラーボールが回る
ドロロロロロロロロ……
ドラムロールが鳴りひびき
派手な坊主が……
頭上に高くかかげた数珠を……
ふり下ろしたッ!
明るい照明で満たされる葬儀場
棺桶が開き
ハトが飛び出し
さらに死んだはずの兄貴も飛び出したッ!
葬儀場に割れんばかりの拍手
外で警戒中のポリも拍手
兄貴は深々とアタマを下げる
いやいやいや、おかしいやろ! どないなっとんねん!
兄貴はアタマを上げる
そして私にこう言った
「兄弟、世話なったの、これがワシの……」
ジャキ。
カキン。
「香典返しじゃぁぁぁぁぁ!」
バキュン!
バキュン!
バキュン!
線香臭かった葬儀場は
火薬の香りに満たされ
薔薇と彼岸花が散り、参列者はまっ赤に染まった
おわり