つみとが 編 第六話
著者: ハリトユツキ様
企画:mirai(mirama)
結局、父の書斎に置いてあった古いバッテリーは旧型のものでどれもアルトに使えるものはなかった。その場合、どうやってアルトは充電されていたのか。そんなことを考えながら、僕はその機材の山を避けて使えそうなものを探す。もしかしたら使えそうなものが見つかるかもしれない。
「アルト、ちょっと待っててね。メシ探してやるから……」
ごとりと重たい機材を両手で持ち上げる。尖った部品がやわい指の腹に当たってズキズキと痛む。そして、抱えていることができずに、唸り声をあげながらそれを落とす。
「うー重たい……きっつい」
体力のない自分には随分と辛い作業だ。
「——あれ、アルト?」
振り返ると、そこにアルトはいなかった。アルトが動くたびにキシキシと軋むオイル切れの音もどこにも聞こえない。
「アルト……?」
胸騒ぎがした。朱世蝶は機械を消すことはないだろうけれど、でも。息がだんだんと浅くなる。
「アルト……! アルト、返事して!」
アルトの声は聞こえない。気がつけば僕は走り出していた。感情が一気に吹き出しそうになるのをぐっと堪えて、できるだけ冷静にアルトが興味を持ちそうな場所を探そうとする。じわり、瞳に透明の薄い膜が見る見る間に広がっていく。息がうまくできない、息苦しい。こわい、アルトを失うと思うと。たった一人の友人を失うと思うと、それだけでこの平面なはずのフローリングに立っていることさえ難しいような気がした。
「アルト……」
朱世蝶に包まれたら、最後。その生き物は存在しなくなる。跡形も無く、消えてしまう。残るのは、ふわりと舞う朱い鱗粉。
——扉の向こうで、キシキシと鉄と鉄の擦れる音がした。そこは僕の寝室だった。そしてその音を出すのは、間違いなくアルトであるはずだ。僕は勢いよく、自分の寝室の扉を開ける。
「アルト……!」
《——アカツキ、ドウシタノ?》
アルトは確かにそこにいた。小さな木製の虫かごに手をかけている。その中には、あの朱世蝶が一匹揺蕩っていた。
「アルト……それ出しちゃだめだよ!」
《デモ、コノ子……》
「アルト……っ」
僕はそのままアルトに飛びついて、虫かごから距離を取らせた。勢いよく飛び込んだせいで、フローリングで膝が擦り剥く。じわりと血が滲む。
《アカツキ……血ガ……》
「うん、別にいい。大丈夫だから……」
それより、アルトが無事でよかった。そう言おうとしたのに、それは言葉にならなくて代わりに僕はアルトをぎゅうと抱きしめた。今、僕はあの日の母のように確かにアルトに心を震わせているような気がした。