つみとが 編 第五話
著者:ハリトユツキ様
企画:mirai(mirama)
久し振りの我が家は懐かしい匂いがした。僕がここを出て行ってアルトと旅をするようになってから、一体どれくらいの月日が経ったのだろう。その答えはアルトが知っているのだろうが、どうしてだろう。僕はその問いを尋ねることができなかった。怖かったのだと思う。
「アルト、ご飯にしよっか」
《ゴハン、ゴハン》
アルトが小さな手をフリフリと動かしながら、鼻歌を歌う。妙に人間っぽいこのロボットの動きを眺めながら僕はキッチンに立つ。すっかりくすんだシンクの一番上の棚をあけて、備蓄用に準備されていた埃を被った缶詰を数個取り出した。賞味期限はギリギリ切れているが問題はないだろう。残りわずかな米と水を炊飯器に放り込んで、ボタンを押す。タイマーがセットされる。今日は久し振りのご馳走だ。
本当は料理ができればいいのだけれどと、そんなことを思いながら以前野菜炒めを作ろうとしてコンロが燃えた跡に触れる。ずいぶんと大惨事になってしまったあの日、母さんは一目散に僕のところに飛んできて火傷の心配をした。真っ黒焦げになった壁を母さんは少しも気にしていない様子で、僕のことをぎゅうと抱きしめて良かったと笑った。愛されてた——なんて、やすい言葉だとは思う。それでも確かに正しい愛を注がれていた。今でも時々あの日の母さんの顔を思い出す。人は人のために、こんなにも心を震わせることができるのかと思う。今なら。けれどもう、母の手に触れることは叶わない、永遠に。
《——アキツキ、ドウシタ?》
気がつくと、アルトが首を傾げながら僕の方に向かってぱちぱちと小さな手を動かしていた。しばらく考え事をしてた僕のことを心配していたらしい。僕はなんでもないように振る舞うと作り笑いを浮かべてみせた。
「なんでもないよ、アルト」
《ソウ、ナノカ……?》
「そうだよ、アルト。さあ、アルトのバッテリー探しに行こうか」
僕はアルトを抱えると、父の書斎に向かった。本棚がずらりと並ぶ、そのそばには所狭しと機械やその備品が並んでいる。アルトのバッテリーもこの中から見つかりそうだ。
「見て、アルト。アルトに似てる」
僕が楕円型の機械人形を指差すと、アルトは少し怯えたように僕の腕を掴んだ。
「大丈夫、動かないから。アルトみたいに完成したものじゃないからね、魂は入ってないんだ」
《タマシイ……?》
「うーん、難しいけど……生命の光の輝きみたいなものかな……」
アルトは不思議そうに首をかしげる。まるでインコが首をひねるみたいに自然な角度で。
「生きてるよって……ここにいるよって……魂は叫ぶんだ。僕の中にもある。僕はアルトの中にも、あると思う。もしかしたらいなくなった人たちのそれもここのあたりにあるのかも、見えないだけかも知れない……」
《ミエナイケド、アル?》
「そう。見えなくても、身体の中にいても外にいても、ちゃんとそこにある。あったらいいなって……」