つみとが 編 第四話
著者: ハリトユツキ様
企画:mirai(mirama)
「今回はもう、ダメだと思ったのに……」
《ダメニナリタイノカ?》
アルトにそう尋ねられて、僕はうずくまったまま何も答えられなかった。こんなに苦しい思いをするくらいなら、長い間怯えて生きていかなければいけないのなら。はやく消えてしまいたかった。消滅してしまった最初の人類になりたかった。そう、叶わなかったことを思う。
《アカツキ?》
アルトが僕の腕を鉄でできた手できゅっと掴む。オイル切れのその身体はキシキシと音を立てる。僕はアルトの手を取ると、そのまま腕の中に抱き寄せた。その身体は冷たいようで、モーター音が唸り声をあげていて思ったよりも暖かい。熱暴走しないように本当は一度電源を切ってやらないといけないのだけれど、今の僕にはそんなことをする体力は残っていなかったし、できればこのぬくもりに触れていたかった。
「アルト、あったかい……生き物みたい」
《アルトハ、ロボットダヨ》
「知ってるよ、そんなこと」
まだ、心臓がばくばくと跳ねて胸が苦しい。それでも——アルトを一人放って消えることはできないから。僕は立ち上がると、あたりの様子を見渡す。電気が通っていないせいで、あたりは薄く差し込む夕焼けの光でしか確認することができない。けれど、それが見慣れた景色であることを確認するのには十分すぎるあかりだった。僕は思わず息を飲んだ。だって、そこは。
「……ねえ、アルトここ、僕の家だ……」
《ドアガ開放サレテイルノハココシカナカッタヨ》
「そうだね、母さんと父さんがいなくなって……僕がこの家を出て行った時には鍵を閉めなかったから……」
だって、ここに入り込んでくる人間はほとんど絶滅してしまっていたから。鍵なんて、必要なかった。僕は小さく息を吐くと、頭の中の記憶でランタンを見つける。
「よかった、ついた……」
ランタンの穏やかなあかりがあたりをぼうっと照らし出す。昔遊んでいたお気に入りのおもちゃやアルトの部品、いつも座っていたはずのオレンジ色のソファー。もう随分と昔の記憶であるように感じる。母さんがつくったアップルパイは黒く腐敗してハエが飛んでいた。
「アルトの部品、あったら修理できるかも……」
《アカツキ、デキルカ?》
「どうだろう……僕、父さんみたいに手は器用じゃないからなぁ」
《アカツキノパパ?》
「うん、アルトを発明した人だよ」
父さんはよく僕に機械いじりを教えてくれていたけれど、それはもう子供の頃の話。最近は父さんと話す機会もあまりなかったように思う。
「……もっと、ちゃんと聞いておけばよかったなぁ、いろいろ……」
いつか、父さんが話をしてくれた。朱世蝶にであっても捕まえてはいけない、触ってはいけないという話についても。父さんはこんなふうになってしまった世界の治し方も知っていたのだろうか。あのときはこんなことになるなんて僕も父さんも予想していなかっただろうけれど。