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つみとが 編 第十一話

著者:ハリトユツキ様

企画:mirai(mirama)

籠の扉を開けても、朱世蝶はしばらくその中にとどまっていた。この蝶を籠の中に閉じ込めて、一体どれくらいの時間が経過したのだろう。僕はその間、両親を失い、街を失い、そして旅に出た。ずいぶんと長い間、旅を続けていたように思う。もう僕の手の中に残っているものは、父が残してくれたアルトとこの籠、それからこの家くらい。

格子に触れる指が寒さにかじかんで震えている。熱はすっかりこの空気と籠の格子に移ってしまった。

「ほら、おいき」

僕は籠を空に向けるとかすかに揺すった。もうしばらく羽根を動かしていないその蝶は飛び方をたった一瞬迷い、そしてぱたりと羽根をはためかせた。

深い夜の中を朱い蝶は舞う。まるで、この世界を搔き消すため役目を仰せつかった使いのように。四十日間、世界は暗闇に包まれ、そして新しく生まれ変わる。僕はその瞬間、きっとこの世界にいないだろう。いや、僕はいるべきではないというべきか。

「さあ、飛びな。自由に、どこまでも、飛んでいっていいんだよ。君のいきたいところに」

蝶はしずかに空を見つめていた。僕にその瞳はみえなかったけれど、そのことがどうしてかわかった。やがて、朱い羽根が僕の冷えた指先にそっととまる。

《アカツキ》

アルトが僕の名前を呼んだ。僕はアルトに手を伸ばすと、そっと抱きしめてやった。夜風で冷えたその鉄の身体に僕の体温が奪われていく。けれど、それほど苦痛ではなかった。寒いとも感じなかった。

「アルト、今日は疲れたね」

《アカツキ……》

「ねえ、手を繋いでいてもいい?」

《アカツキト一緒。一緒》

「うん……」

どこから現れたのか、朱い蝶がもう一頭僕の手のこうにとまった。身体の温度が吸収されていく感覚に僕は軽いめまいを感じる。僕はただアルトをぎゅっと抱きしめながらまぶたを閉じた。じっとしてだんだんと冷たくなっていく僕の身体に無数の蝶がとまるのがわかる。

ずっと前から、僕が遠くからみてきた景色。朱世蝶が群がったものはどんな人でも生き物でも消してしまう。すべてを掻き消してしまうその存在。こわかったはずの蝶が恋しく感じるようになったのはいつからだろう。触れられたくないという思いとともに、心の奥底ではそれに触れられることを望んでいたような気がする。

《アカツキ》

アルトが怯えたような声を出すから僕は頰に笑みをつくり、そっと笑う。暗い腕の中でアルトは僕の笑みをじっと見つめていた。

「大丈夫だよ、もうおやすみ」

《オヤスミ、アカツキ》

僕は重たくなっていく指先でアルトの電源を切った。

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