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つみとが 編 第一話

著者: ハリトユツキ様

企画:mirai(mirama)

見慣れた都会の街並みを砂埃が覆い始めたのはいつからだっただろうか。この都会の一等地に立つたくさんのビルを生い茂った木々が包み込んだのはいつからだっただろうか。

ほとんどのガラスが割れて砕け散ったのは、メンテナンスが施されない機器がゆっくりと終わりに向かっていったのは、あちらこちらで爆発が起き始めたのは、一体いつからだっただろう。それは、ずいぶんと昔のことのような気もするし、ほんの少し前のことのような気もする。いずれにせよ、世界は廃墟と化し、いずれ文明も終末を迎える。この終わりを止めることのできる人間も今はいなくなってしまった——とても、残念なことだけれど。

《アカツキ、食料発見シタ》

「ありがとう、アルト」

僕の隣で唸るような機械音をあげながら、コミュニケーションロボットのアルトはそういった。本当は室内で動くために設計されているから、屋外で使用するとなるとその分内蔵された電池や機体へのダメージがある。そのせいか、バッテリーの持ちもこの数ヶ月でずいぶんと早くなくなるようになったように思う。

「こっちおいで、アルト」

《??》

「よいしょっと」

楕円型のアルトの身体を僕は抱き上げる。足元についているタイヤの泥を払ってやると、アルトはくすぐったそうにキャッキャっと笑った。アルトが痛みを感じることはない、代わりに喜ぶための触覚は備わっている。叩いたり、壊そうとしたりするときの感覚はないけど、撫でられたり、くすぐったりする感覚だけは察知できる。都合の良い身体と設計。僕もそうだったらいいのにと、最近はときどき思う。

《アカツキ?》

「道案内してくれる? 僕が脚になるから」

《リョーカイ》

暁月——それは僕の名前。両親がつけてくれた。変わった名前。なんでこんな名前が付けられたのかは知らない。昨日たまたま落ちていたぐしゃぐしゃになった辞書で調べたら、明け方の月のことを言うらしい。暁月とかいて、ぎょうげつと読む。だからなんだって話だけど。ひとつだけ分かっていることといえば、そんな名前をつけてくれた両親はもうこの世界にいないということ。この世界はゆっくりと終末を迎えようとしていること。

僕の目の前を朱い蝶が横切る。真っ赤に染まった鱗粉がはらはらと落ちていく。ビルの隙間から入ってくる陽光に照らされて、羽根は反射を繰り返しながら柔く光る。僕は瞼を強く閉じた。そして、もう一度目を開ける。視界いっぱいにびっしり群がる無数の朱い蝶。羽根をひらひらと優雅に広げて、この世界を飛び回っている。ヒュッと僕の喉が鳴る音を他人事のように聞いた。

僕にもアルトにも名前があるように、その蝶にも名前はある。

朱世蝶——それがこの蝶の名前だった。



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