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第3話 焼かれる村と謎の男


(と、とんでもないことを引き受けてしまった……)


エマナは家に帰るなりすぐに机に突っ伏した。

簡単な依頼を終わらせ、ギルドマスターから貰った資料を見ながら帰路についたエマナだが、かなり難易度の高い任務を受けてしまったのではないか?と改めて認識した途端、段々と気が重くなっていった。

そして家につく頃にはプレッシャーで足取りは重く、冒頭のようになった。

まだ今日の出来事を聞いていないクリムはエマナが何に落ち込んでいるか分からず、頭をぽんぽんと叩いて慰めることしかできなかった。


「エマ姉、だいじょうぶ?」

「あはは……大丈夫よ〜」


エマナは心配させないように笑ったが、その笑みはぎこちなく、クリムの心配を余計に煽るだけだった。

これ以上心配させたらだめだと思い顔を上げ、心配そうにしているクリムを見る。


「ねえクリム、少しお話しましょう。クリムにも関係する、大事なお話」


それを聞いたクリムは隣の椅子に座った。聞く準備はできました、とでも言うように。

それを確認したエマナは今日ギルドで受けた依頼について話した。

だが全部を話したわけではなかった。

調査対象がアグド=シャーマンであることと、エマナ自身が囮として動くことはあえて伏せていた。


「__そういうわけだから、しばらく帰りは遅くなると思うわ」


話を聞き終えたクリムは、発達しきれていない幼い脳でエマナの話を理解しようとしていた。しかしすべてが分かるはずもなく、結局クリムは『誰かの調査を任されたこと』と『しばらく帰りが遅くなる』ということだけしか覚えきれなかったようだ。


「大丈夫!できる限り早く帰れるようにするから!」


元気に答えると、クリムはぱあっという効果音とともに満面の笑顔でエマナを見た。


「ほんと!じゃあ僕、いつも通りにエマ姉を待ってるよ!」

(ああもう本当に天使!!依頼を放置したくなるじゃない!!)


クリム大好きなエマナにとって今の笑顔は可愛いを通り越して心の中で叫んでいた。

それを体現するかのように強くそして優しく抱きしめた。


「よし!元気が出たところで、ご飯にしましょうか」

「うん!」


クリムは元気に返事し、キッチンに向かおうと席を立つ。

すると、外が急に明るくなり、その数秒後には村が騒がしくなった。

いや、騒がしいと言うよりは――


「……悲鳴?」


エマナは嫌な予感がし、かけていた剣を持って外に飛び出した。







ただの杞憂なら普通の村の光景が広がっているはずだ。

出稼ぎから帰ってくる大人たちを、遊び疲れた子どもたちが迎える、ありきたりで平和な光景。

しかし、エマナの見た光景は平和とはかけ離れていた。


「村の家が……!」


――全ての家が燃やされていた。


村が全く別の光景に変わったことにより、困惑と驚きと怒りと他にも沢山の感情がエマナの中で渦巻き、頭は真っ白になっていた。

後をついてきたクリムも顔を真っ青にして恐怖した。

すると、ガシャガシャと鎧がぶつかる音が聞こえた。

エマナはそっとクリムを後ろに隠し、剣を構えた。

近づいてきていたのは王宮の騎士達だった。

エマナはホッとした。騎士達が来ているのなら村人たちは助かっているのだと思ったからだ。


「あの――」


エマナは村人たちが無事かどうか聞こうとしたが、それは一人の騎士が槍をこちらに向けたことで阻まれた。


「エマナ=ファルジア!貴様を反逆罪の首謀者として捕らえろとのご命令だ!」


突然の宣言にエマナと後ろに隠れているクリムは驚愕した。

反逆罪――つまり国を脅かすようなクーデターを起こしたということ。


「何故ですか?私は何も」

「反逆者に答える義理はない!捕らえろ!」

「「「「はっ!」」」」


騎士の号令で他の騎士たちがエマナを捕らえようと動いた。

もちろんエマナは冤罪で捕まる気などなく、持っていた剣で近づいてきた騎士達を力いっぱい薙ぎ払った。


「はあああ!!!」


近づいた数名の騎士はガキンッという金属音がぶつかる音とともに薙ぎ飛ばされる。

しかし倒れた騎士を見ても、怯むこと無く攻撃を仕掛ける騎士達。

エマナも負けじと応戦する。



突いてくる槍を剣で反らし、蹴りを食らわせた。



槍の柄で殴ろうとする騎士の攻撃を避け、槍が切れる程の勢いで薙ぎ払った。



クリムに気付いた騎士が人質にしようと伸ばした手を掴み、柄で頭を殴った。



一人づつ確実に倒してはいるが、状況はエマナが劣勢なことに変わりはなかった。

それでも剣を交えては隙を作り、少しでも戦いやすい広い場所へと移動する。クリムも置いていかれないように、そして騎士達に捕まらないよう必死に動いた。

それを繰り返しているうちに、あと少しで村の外というところまで来ていた。

だが__


「なっ!」


村の入口に騎士達が待機していた。

先程まで戦っていた騎士達の人数でギリギリだというのに、そこからさらに援軍が来てしまった。


(このままじゃ、二人共……っ!)


今の状況をどうにかして打開しようと思考を巡らせた。


「貴様!何者だ!」


しかし、入口の方から怒声が聞こえたことで思考が止まった。騎士達も動きを止め、怒声が聞こえた方を見る。

そこには、いつの間にかほとんどの騎士達が倒れており、代わりに黒いロングコートを着た長身の男が立っていた。

騎士達は警戒をエマナからその男に変え、槍を突き出す。

男は臆すること無く手を前に出した。


「吹きとばせ『シルフ』」


男が告げた次の瞬間、男の方から突風が吹き荒れた。

エマナはとっさに剣を地面に深く刺し、クリムを包み込むように抱え、飛ばされそうになるのを必死にこらえた。

騎士達は重い鎧をつけているにも関わらず、ゴウゴウと鳴る風に次々と飛ばされていった。

風が収まった頃には周辺の炎は消え、騎士達も吹き飛ばされていた。


(なんて威力……)

「おい、そこの冒険者」


あまりの威力に呆けていると、男に呼ばれた。


「さっさと逃げるぞ」


それだけ言うと男は見向きもせずに森の方へと消えた。

残された二人は彼を信用してよいのか分からなかった。

だが、たった二人で逃げるよりもまだ安心だろうと言い聞かせ、クリムを抱きかかえて男を追った。











王宮の一室にて、黒い法衣を着た男が水晶に魔力を流し込み、映像を映し出す。

そこに映っていたのはクリムを抱えて走るエマナだった。


「……逃したか。まあいい、俺の計画に狂いは無い」


男はニヤリと笑う。


「キッキッキッ、精々逃げ続けてみろ。絶望に歪んだその瞬間が俺の望むお前の最期だからな」


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