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月曜日のお茶会  作者: 塵芥
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噂話

「そういえば・・・・・」


口火を切ったのは雅子だった。


小学生の時、一部の男子から「尼将軍」と呼ばれていた彼女も、大人になってからは「雅子さま、又は、雅子さん」と冗談ぽく風雅によいしょされているが、

やはり本質は尼将軍なのだった。


「今日、やっぱり恵ちゃん来れなかったのね。一応はお誘いしたんでしょ?多田野さんから」


「ええ、メールで声はかけたんだけど・・」


民子は、この件に関して・・・


彼女たちから、必ず問われることと覚悟していたにも関わらず、思わず言葉尻を濁した。

これから、異端尋問・・・はたまた魔女裁判でも始るかのような緊張を感じていた。


恵・・・・とは、このママ友グループの一員である同年代の女性だ。


「で、その・・・・恵ちゃんはなんて言っていたの?」

美貴は覗うように聞いて来た。


「いや、ただ、”ごめんなさい、行けません”とだけ返信が来てそれっきり」


「え?なんかあったの?ねえ多田野さん。あたしだけ話が飲み込めてない~ねえ~教えて♪」


春休み、夫の実家であるNYへ家族で里帰りをし、その足で西海岸を満喫してきた樹里亜は、ここしばらく日本におらず、

ことの顛末をよく知らされていなかった。。

なので、俄然話に喰いついてきた。

「何があったの~?あたしだけ知らないこと~??」



話をふられて民子はあせった。

こういう面倒なことは極力遠ざけて生きて行きたい保守派の民子は、隣でうつむく美貴に助け船を求め、おもわず美貴をチラ見してしまった。



「あのね樹里亜ちゃん、私がPTA会長さんから聞いたままを教えるわ。

加筆修正なし。聞いたまんまだから・・・・」


しかし・・・・口火を切ったのは、情報屋の雅子であった。

我先にと、先手をうって話出した。



「うん・・・・教えて・・・」

気のせいか、樹里亜の瞳の奥がランランと輝き、ごくりと生唾を飲む音が聞こたような気がしないでもなかった。



「なんでも・・・・春休みの間に、恵ちゃん宅のこうちゃんが漫画を万引きしたらしいのよ」


「え~!!ほんと!?」


「ええそう、事実らしいわ。ただ・・・幸ちゃんの言い分では、お友達に命令されたんですって。

その友達に、”盗ってきて!”って言われたらしいの」


「友達って誰それ?」







再び沈黙が流れた後に告白したのは、うつむいていた美貴だった。


「・・・・・うちのルナだって言うのよ、幸ちゃんは。


でもね聞いて。確かに幸ちゃんが万引きした連載漫画は二十四巻目だけ。

月が集めていたのも同じ漫画の二十三巻までよ。

まだ二十四巻は、うちでは買ってあげてなかったわ。


だからってそれが証拠にはならないでしょう?

月は、漫画を買ってもらえない幸ちゃんに、二十三巻まで全部貸して読ませあげていたんだもの。

早く続き読みたさに、幸ちゃん一人でやったんじゃなかしら?どう思う?」


美貴は懇願するように言い切った。とても難しい問題だ。


美貴の弁解に、皆それぞれの胎を探るようにお互いを見合った。


「漫画ってもしかして、大場 加奈子 原作の『月とスッポン』でしょ。

境遇の違う二人がそれぞれアイドルを目指すっていう、今女の子に話題の」



「そう、『月とスッポン』よ。

月・・・・だなんて、いやね。うちのルナとの因果を感じるわ。


以前、夫の・・・・桐嶋のお義母さまがルナに二十三巻まで買い揃えてくれたのよ。

最新の二十四巻が出たとき月も欲しがったけど、我慢させたわ。

だって、ついその前に、発表会で着る”アンダンテ・トレヴィアーノ”の薔薇柄ドレスと、"MOKICHI・YAMASHITA"

の勾玉ティアラをオーダーしたばかりだったから。

いくらなんでも、買い与えてばかりは良くないと思って・・・あの子にはお小遣い制にしてないから・・・・欲しいものは相談して買ってあげてるの」


美貴は溜息まじりに長々と呟いた。


「へえ~山下茂吉って、あの世界のYAMASHITAでしょ。ジュエリーもデザインしてるのね。茂吉の墨染めスーツはたしか一着は持ってるけど・・・」


雅子は、子供同士のイザコザに関しての一連の情報を、すでに役員ママから聞きだしていたので、さほど驚きはしなかった。


「そっか~でも、月ちゃんは、幸ちゃんに万引きしろなんて言ってないんだよね

じゃあ、おのおの、わが娘の言い分を信じているんだね。

恵みちゃんも、娘の幸ちゃんを信じてるんだね。

それでいいと思うよあたしは。あんまり白黒はっきりさせなくても、子供の場合は」


樹里亜は、持ち前のポジティブシンキングで、ことを大らかにとらえてた。


「そ、そうね~樹里亜ちゃんの言うとおり、双方、先生を交えて話合いが済んでいるのなら、蒸し返さず今のままでいいかもね」


と、民子はようやく口を挟むことに成功した。


「ま、それも言えるわね。むしろ、この件を気に病んで、母である恵ちゃんがすっかり引き籠ってしまったことの方が心配ね。

噂では、彼女・・・・

鬱っぽくなって精神内科に通ってるっていうじゃない。

ご主人とも育児をめぐってもめたらしくて・・・・昼間からビール飲んでるって話も聞くわね。

ご主人の仕事もうまくいってないらしくて生活は大丈夫なのかしら?

それに、三年生になる下の子の愛ちゃんも、教室では落ち着きがなくて大変みたいだしね。色々問題が多い家庭よね」


とまあ、さすが情報通の雅子だけあって、瞬時に色々なゴシップを暴露してくれた。


「でも・・・・だからって、うちの月を巻き込むんて・・・あんまりだわ!あの子来年は中学お受験なのに・・」

美貴はなよなよと泣き崩れた。


恵・・・こと、桜川 恵(三十七歳)。


恵がこのグループの一員になったのは、小学校に入ってからのお仲間になる。


小学校で初めて出会ったのだ。

娘同士の遊び仲間を通して、母親同士もお近づきになった。

当初は、学校行事で顔を合わせる程度であった。

が・・・・恵は民子よりも若干庶民ではあったが、民子よりは僅かに知的な雰囲気を漂わせ、このママ友仲間の一員になりえたのだ。

地方国立大出身である恵の知的な庶民具合が、彼女達に認知されたともいえよう。


「美貴さん泣かないでよ~そんなこと大した問題じゃないわ。

あたしはてっきり、あっちの噂話かと勘ぐちゃったわよ~」


樹里亜は思わず口を滑らせてしまった。


「え・・・・あっちの噂って何?樹里亜ちゃん?何のこと言ってるの?」


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