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五分五分の悪役令嬢  作者: 沖綱真優
1/10

<1> 能力は【五分五分】

 虹のような緩やかな放物線。

 軌跡は雨上がりの煌めきを模しながら、枯れ草色コートと群青色デニムパンツのいかにも地味な色合いに、誰の関心も寄せ付けない。

 否、たまたま、時間帯が悪いのか、天気が悪いのか、人通りがなかっただけで。

 地面にぶつかり、ごろりんごろりと二度ほど転がった頃にはもう、物言わぬ骸となった誰かの、その見開いた目を——



 *



 誰が閉じてくれたのだろう。


 前世を思い出して、私、フォンテーヌ公爵令嬢オリアンヌは、初めにそれを考えた。

 突然の耳鳴りの割にやんわりと思い出したのは、死の瞬間と、今生きているこの世界が前世でいうところの乙女ゲーム、【クラリスと不思議な絵】の世界だということ。

 そして、異世界転生モノのご多分に漏れず、転生者の乙女ゲームでの役割は——


『でも、ただの悪役令嬢も可哀想だからさぁ、特殊能力を与えてあげるよ』


 魅力的な男声(イケボ)が頭の中で喋った。

 これは記憶?

 転生した時によくある、転生ルームみたいなところで——


『違う違う。今現在、君の頭に直接話している。ま、最初で最後だけどね。明日からゲームスタート、断罪エンドは処刑か流刑かピーをピーされてピーピーになるか』


 脚本家シナリオライターがツイッターの鍵垢で呟いたのが何故か流出した最悪の裏設定は、悪役令嬢の末路ゆえか逆に受けて、公式が認めているとばかりに薄い本が量産された。

 金髪縦巻きロール吊り気味碧眼に通った鼻梁色素の濃い分厚い唇に更に紅を塗りたくる見目華やかな性悪女がナニをナニされる様は、ざまぁなどという短絡的な愉悦以上の興奮と快楽を齎した。


『せいぜい頑張ってね。楽しませておくれよ?あ、能力は【五分五分】』


 挨拶のついでとばかりに能力名だけを残して、一切の説明もなしにイケボの反応はなくなった。

 おい、こら、待て、と脳内で呟いたつもりが唇から漏れて耳に戻り、その声が確かに気品と色気の半分こした(ハーフハーフ)、オリアンヌの美声と確信して、しばし口元を押さえて放心する。


 そのまま、眠ってしまっていた。

 カーテンから溢れる朝の陽射しは柔らかく澄んで、この広い私室のすべてを照らすには弱々しくとも、目覚めには相応しかった。


 目覚め。

 昨夜目覚めた記憶はほんの一部分だとしても、前世の思考は確かに私の中を支配した。

 それにしても。

【五分五分】とは、どのような特殊能力だろう……

 まぁいい。動き出せば、いずれ分かる。

 まずは。

【クラリスと不思議な絵】について、思い出してみる。

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