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異世界転生したけど神様・魔王様と飲み友達になって新橋の居酒屋でダベっただけ(中)

「マサくん、このぼんじりは素晴らしいね……」

「でしょう。ピーマンの肉詰めもいいですよ」

「あっ……あっ……、炭火の匂いが香ばしくて…ピーマンの汁気と団子の肉汁がマッチして……」

「おいしいですよねえ」

「人の子はその指先から幸福を生み出すんだね」

「ラヴィさんと会って初めて神様っぽい言葉を聞いた気がします」


ラヴィさんのスマホに通知が届いた。


<シャーリーちゃん>

20:45『わたしもいっていい?』<

> 20:46 『もちろん! 日本の新橋に来れる?』 既読

20:46 『20分くらいで行くね!』<

21:00 『もうちょっとでつく!』<


ラヴィさんと視線を合わせて返信をうながす。


> 21:01 『西口ね!迎えにいくから!』


即座に既読がついて、ラヴィさんは2杯目の生中の残りを飲み干した。

「よっし、ちょっとシャーリーちゃん迎えに行ってくるね」

僕も2杯目の生中の残りを飲み干した。

「や、ラヴィさん、さすがにこのあたりを1人で歩くのはよくない」


ラヴィさんはきょとんと僕を見て、ふと笑いだした。


「あっ!! そうか!! いま私の見た目、かわいい女の子だもんね!!」

「かわいいとか自分で言う」

「ヨシさんもかわいいって言ってくれたよ? キクさんと大将も脳内ではかわいいって思ってたし」

「……全知って思考も読めるの……?」

「マサくんの脳は読まないようにしてるよ?」

「……全知怖……」

「まあいくらでもジャミングできるから私が行ってくるよ」

「そんなこと言わないでくださいよ。一緒に行きましょ?」

「……悪い気はしないな!」


座敷の襖を開けて、大将に声をかける。

「大将、申し訳ない! 10分くらい席を外します」

「はい、わかりました。何か追加しておきますか?」

「出し巻き玉子お願いします!!」

僕に代わってラヴィさんが注文する。

「お嬢ちゃん、いいセンスだ!ここの出し巻きは美味いぞ!」

座敷から降りて、僕は靴を、ラヴィさんはサンダルを履く。

「でしょー? ヨシさん、こんど一緒に飲みましょうね」

「あ……、俺の名前覚えてたか……。や! マサくんと飲みなさい! お似合いだよ、君たち!」

「もー! 私とマサくんはそういう関係じゃないですよ!」

確かにそういう関係ではない。


ラヴィさんに肩を叩かれてなんだかうれしそうな顔をしているヨシさんと、

ちょっとうらやましそうな顔をしているキクさんを尻目に居酒屋を出た。


*


表通りに出ると人込みにもまれてしまう。

ラヴィさんを誘導して裏道を歩きつつ、気になっていたことを訊いてみる。


「ラヴィさん、割といまさらなんですけど」

「ん、なになに?」

「僕、異世界に飛ばされたのに、いま新橋に居ますよね?」

「あー、やっぱり気になる? いいのいいの! 美味しい居酒屋に連れてってくれるなら、零の重合点くらい、私の特権で越えさせてあげられるから」

「零の重合点……。分母に無限を置くと解が不定になるみたいな話ですか?」

「理解が早いな!?」

「合ってた。中二な期間が長かったので」

「あー……、だから君が選ばれたのかな……」

「異世界転生って抽選制なんですか?」

「そのあたりはコンプラ違反になるから私の口からは言えない」


神様が言えないことって誰なら言えるんだろう。

そう思いつつラヴィさんと歩いてるうちに、新橋駅の西口にたどり着いた。


*


魔王様も、思っていたより幼い見た目だった。ふわふわした金色の髪を二つ結びにしている。

ものすごく周囲から浮いているのだが、魔王様もジャミングしているのか、通行人は誰も気にしていない。


「シャーリーちゃん!」

ラヴィさんの声に、スマホを見ていた魔王様が顔をあげる。色白で目が青い。かわいい。

「あっ! ラヴィちゃん!!」

「うわー、直接会うの、けっこう久々じゃない?」

「そうかもそうかも!」

2人の少女がきゃっきゃとはしゃいでいる。かわいい。


「それで……、この人がマサ…さん……?」

「そうだよ。けっこう理解度高いよ」

ジトっとした目で魔王様が僕を見上げてくる。

「ふーん……。ラヴィちゃんが言うならそうなんだろうけど」

「おいしい居酒屋を教えてくれたよ。ほんと、いい店!」

「えー、いいなー」

「いまちょっと抜け出してるだけだから。戻ろう?」

「あっ! そうなの!? 行く行く!」

「戻りましょうか」


僕の言葉に、魔王様が反応する。


「……あー、マサさん……?」

「えっ、はい……」

「そのお店のおすすめのおつまみは何ですか?」


あ、僕いま試されてる。

恐ろしく強い想気が魔王様から伝わってくる。

もしいま戦闘が始まったとしたら絶対に勝てないと肌で分かる。


しかし、あの店には強い信頼を置いている。


「この時期だと牡蠣の酒蒸しが最高ですね」

魔王様が目を見開く。

「牡蠣の……!! 酒蒸し!!!!」

当たりだった。


「そんなのあったの!? なんで教えてくれないの!!」

ラヴィさんが文句を言う。

「もうちょっとあとでご紹介しようとは思ってたんです」

「酒蒸し……。食べたい……!!」

「行こうよ! シャーリーちゃん! マサくんが悪い人じゃないって分かったでしょ?」

「……分かった」

「ちゃんと仲直りしとかないと! あんな想気ぶつけといて、マサくんじゃなかったら爆ぜてたよ?」

「え? 爆ぜる間際だったんですか僕?」

「うぅぅ……。……ごめんなさい、マサ……くん」

「いえ……、気にしてないですよ……。

 あっ、……じゃあ代わりにっていうか、僕もシャーリーさんって呼んでもいいですか?」

「……いいよぅ」

このかわいい生き物、ほんとに魔王様なのかな。

「仲直り完了だね! それじゃ、戻ろう!」

ラヴィさんがシャーリーさんの手を取って歩いていく。


黒髪ショートと金髪おさげがゆれる背中を追う。

……久々に酒を飲んだせいなのか、零の重合点を越えたせいなのか、視界がぼんやりする。

ラヴィさんもシャーリーさんも、僕の肩より小さい。少女と言って差し支えない。

ラヴィさんの黒髪ショートの白ワンピにジーンズというラフな格好もかわいいし、シャーリーさんのふわふわ金色セミロングに合わせた紺のジャンパースカートもかわいい。転生先はかなりキツい生活だけど、この2人の後ろ姿を間近で眺められるなんて眼福にもほどがある。……あれ、でも待てよ? シャーリーさんは女の子なのかな? 見た目から言えばどう考えても女の子だけど、決めてかかってはいけない。まあこれだけかわいかったら性別なんて関係な……


ふっと2人は歩みを止め、振り返って僕の顔を眺める。2人とも瞳がきれいでどきっとする。

僕はなるべく冷静な表情を保ったつもりだけど、2人が『ああ、なるほど』という顔をしたのを見て、酔いが醒めた。


「……もしかして、僕の考えてること読んでます?」

「全知はこういうときに使わないと」

「……シャーリーさんも全知なんですか?」

「私は全知じゃないよ? ちょっと心が読めるだけ」

やばいぞこいつら。

「シャーリーちゃん、この人、ちょっとおかしいね」

「……うん、やっぱりちょっとおかしいくらいじゃないと、異世界(あっち)に行けない……のかな」

おかしいとか気軽に言うな。

「うわー……。マサくん、シャーリーちゃんのことえっちな目で見てるみたいだね」

「やだなあ……。あっ、でも、この人、ラヴィちゃんのこともえっちな目で見てるよ?」

「うわわわ、分かってはいたけど、やっぱ言葉にされるとキツいものがあるな」

やめろ……。ごめん……。やめろ……。

「ちょっと悪いことしちゃったな。もう読むのはやめとこう」

「私も見ないように気を付けよう」

「マサくん、ちなみにね、シャーリーちゃんも実体としては女の子だよ?」

「ラヴィ!! それは言わなくていいこと!!」

「……お二人とも恐れ多くて手出しできないですよ」

「彼女すらいないくせに」

「手出しとか言って、何にもできない変態のくせに」

「お2人とも辛辣ですね!」


肉体的には年下だが精神的には年上の少女たちになじられ、僕はちょっと興奮していた。


「ラヴィちゃん、この人、あんまりよくないと思うよ」

「私もそんな気がしてきた」

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