世界の悪役も楽じゃない
「魔王様!勇者グループが第三区画へ到達しました!」
「勇者、聖女、戦士、賢者、あと勇者を追いかけてきた多数の女が第四区画へと進んでいます!」
「全く疲弊を感じさせぬ足取りで無駄話さえする余裕っぷりです!」
「一方こちらの被害は把握できません!」
「如何いたしましょう!魔王様!」
『追っかけの女を拐え。そいつら全員を囮とし、第一区画へと勇者共を呼びだせ。』
「さすが魔王様!奴らに弱点を生み出す訳ですね!」
『捕まえた囮は我が城へ運べ。傷つけるでないぞ。』
「わかりました魔王様!」
「うら若き女の魔力、処女の血は最高の触媒になりますからな。」
「悪虐非道、冷酷無慈悲!魔王様、素敵!」
「魔王城までもうすぐだ!」
「さすが勇者様!私たち人類の希望!」
「イケメンで、力もあって、しかも優しい!」
「勇者様ぁ〜!こっち向いてぇ〜!」
「私たち、どこまでもお供いたしますぅ!」
「何よ、あの馬鹿勇者。女にデレデレしちゃって。」
「どうしたのです?聖女。もしかして嫉妬ですか?」
「違うわよ賢者!あたしは一国の姫。そんな低俗な心意気など持ち合わせておりませんわ!」
「と申されていますがどうでしょう戦士。」
「姫も難儀やなぁ。そんなに取られるのが嫌なら勇者にくっついときゃええんや」
「まっ!そんな、そそ、そのような、はははしたないことなど…」
「こら、戦士。あんまり聖女をからかってはダメですよ。」
「おっと、ここから先は瘴気が濃いようだ。子猫ちゃんたち、後ろでちょっとまっててな。」
「勇者様!頑張ってください!」
「私たち、ここから応援しています!」
「勇者様、どうかご無事で…」
「頑張ってくださいですぅ」
「あたしたちも行くわよ!」
「ええ、もちろん」
「勇者にええとこみせたいんやな?」
「そそ、そんな不純な動機じゃないわよ!」
「早くしないと置いていきますよ、戦士。」
「勇者グループから女どもが離れたぞ!」
「今がチャンスだ!作戦開始!」
「転移魔法起動!見つかる前に魔王様のもとへ送り届けろ!」
「大変だわ!勇者!さっきの女たちが攫われたわ!」
「なんだと!いったいどうやって…!」
「この瘴気は罠だったようです!私のマップからも女性方の反応が消えています!」
「くっ、瘴気のデバフが視程低下しかなくて妙だと思えば!」
「どうする、勇者!俺たちには女どもがどこへ消えたか知る術がねぇぞ!」
「一度引き返すんだ!何か手がかりが有るかもしれない!」
「ああ、なんてこと!みんなどこへ連れ去られたの!」
「落ち着きなさい、聖女!」
「そうだぞ姫!あんたが取り乱しても何も解決せえへん!」
「くっ、僕に気配察知の能力があればっ…!」
「おい、勇者!なんか落ちとるぞ!」
「戦士!あんたそれに触らないで!悪属性の魔力を感じるわ!」
「こんな紙切れみたいなもんにそんなけったいな…」
『よく見破ったな聖女。我は魔王。魔族の頂点にして後に世界を統べる者。』
「魔王、貴様の仕業か!子猫ちゃんたちを攫ったのは!」
『女どもは預かった。返してほしくば南の港町まで来い。』
「貴様の指図になぞ乗るか!魔王城で待て!直ぐに乗り込んでやる!」
『もし貴様らが二刻以内に来ない場合、女どもを一人ずつ我の魔力触媒とする』
「魔力触媒ですって!勇者、まずいわよ!魔力触媒にするために彼女たちが犯されるわ!」
「本当なの?聖女!ここから港町までは全力で走ってもニ刻なんて!」
「賢者、落ち着いて!あたしがここに残って皆に隼の加護を授けるわ」
「おいおい、姫!俺らに姫を置いてけって言うんとちゃうよな?」
「そうだぞ聖女!この勇者が貴女をここに置いていくわけにはいかない!」
「いいえ、行って、勇者!あんたは人類の希望、あたしたちの誇りよ。あんたが助けに行かなくてどうすんのよ!」
「くっ…聖女、わかった。すぐに終わらせる!すぐに戻ってくるからな!この勇者に誓って皆を死ぬことなどさせない!」
「私が堅牢の膜をはりましょう。聖女、あなたは身を隠しているのよ。」
「姫、すまん!すぐにもどる!」
「ええ、あたしは平気よ!さあ、早く!」
「なんとかなったわよ、魔王。」
『お前、ボロ出しすぎな。急に女が攫わらた〜なんて言い出したときはマジ焦ったわ』
「あんただって最近魔族の練度の低下、著しいわよ。あたしたちがここまで来れるのなんてイレギュラーなんだから。」
『ぬぅ、それはすまん。だがな、魔族の中での人間を舐めてかかる風潮が拭えんでな。』
「あんたが滅ぼされると人間圏では弱小国のあたしたちが困るのよ。なんとかなさい。」
『だがな、お前らが無闇にうちの領地を荒らすから後始末が大変なんだぞ。』
「それは仕方ないじゃない!」
『仕方なくもあるか!無駄に極大魔法を放ちやがって!勇者は連れを増やすから食費も行楽費も馬鹿にならんし。』
「だ、だってぇ…」
『もうすこし慎ましい行動はとれんのかね。お前らの活動費も起こした問題の賠償金もなんでうちが半分受け持たんといけんのだ』
「それは昔にそうやって決めたからじゃないかしら?魔王様?」
『ここまで問題児が集まるとは思わんかったわ!』
「なんですって!」
『勇者が連れてく女の家族への対応!
見た目清楚な賢者の趣味のギャンブルの負債返済!
エセ関西弁の戦士のアホみたいな食費とプロテイン代!
それだけにとどまらず金をかける村ごとの出発パレード?毎日お疲れ様の宴会?どんだけ散財してんだお前らは!』
「ぐ、ぐぅの音も出ないわ…」
『ああ〜!世界の敵もやってられんわ!』
「あ、あたしたちもあんたら魔族の敵になってあげてるじゃない!
あれでしょ?あたしたちっていう共通の敵がいなくなったら頭まで筋肉でできてる魔族なんて俺たちが一位だ〜なんて種族戦争を起こすでしょ?」
『む、むぅ…否定できん…』
「それに!新規魔術の開発なんて二歩も三歩も人族に遅れをとってるじゃない!魔法の魔の字を名乗る魔族が聞いて呆れるわ!あたしたちが内密に技術提供しなければ今回だって危なかったのよ!?」
『ぬ…面目次第もない…』
「はぁ、あんたに文句言ってもどうしようもないわ。」
『苦労するな、互いに。』
「ほんとよ。世界の敵になんてなるもんじゃないわ。」
『まぁ、我とお前でこうやって世界の半分を受け持っているんだ。これ以上贅沢を言うわけにもいくまい。』
「そうね。とりあえずは今回の遠征という名の戦力の削り合いを終わらせましょうか。」
『うむ。とりあえず勇者の連れてきた女どもは眠らせたまま元の街へ送っておいたぞ』
「助かるわ。あとは勇者を連れ帰るだけね。」
…こうして勇者は一度戦力を立て直す為に王国へと戻り、魔王は魔族統一に向け動き始めるのであった。
きっとこうやって世界は廻ってる。