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夢だと思ってた。  作者: アイリス
序章
9/13

第8話 「一瞬」

「そんなんじゃ魔物に襲われて一溜りもないわよ、どんな事態になっても冷静に対処しなさい。」

「は‥‥はい!」


 私は今、1人で生きていく為に必要な術を教わっている。

 ルーティさんはとても厳しい、学校でも厳しい先生は居たが、彼女以上に厳しい人は居なかった。

 だが当然のことだと思う、この世界は命懸けで生きていかなければならないからだ。


魔法付与エンチャント‥‥、防いでみなさい。」

「‥‥!?」


 ルーティさんは拾った木の棒に魔法を使った。

 木の棒から雪のような雫が零れていく。

 あれは恐らく‥‥氷の力を宿したんだ。

 氷に対抗しうるのは‥‥炎か。


「くっ‥‥」


 手に持ったショートソードに意識を集中、炎の熱をイメージ。

 ルーティさんの魔法付与エンチャントは私とは次元が違う。

 生半可なイメージでは対抗は疎か、抵抗すら出来ない。


「行くわよユイ。」


 彼女が言葉を言い終わるか否や、一瞬で距離を縮めて目の前に迫る。

 常人離れしているが、彼女の動きを目で追えるようになっていた。

 

「ふっ! はっ!」


 ルーティさんの持つ木の棒は、金属バットを振りました時のような風を切る音を鳴らす。

 あんなものを身体のどこかに食らってしまえば、私なんてすぐに死んでしまう。

 辛うじて身体をひねり、防げるものは防ぐ。


「避けているばかりじゃ追い詰められるわよ!」

「くっ‥‥!」


 ルーティさんの言う事は最もだ。

 だが考えてみてほしい、私が持つのは人を斬る為の武器で、彼女が持つのはただの棒。

 それなのに、打ち合う度に、金属と金属がぶつかる音のような鈍い音を立て、火花が散る。

 あり得ない‥‥あり得ないことが今起きているんだ。


「ただの棒じゃないんですかそれ‥‥!」

「魔法は全てがイメージと教えたはずよ。」


 イメージさえ出来てしまえば、どんなことでも出来そうな魔法。

 自分の保有する魔力と相談しながら、ルーティさんに抵抗するための何かをイメージする。

 

「もっと身体を小さく動かしなさい! そう‥‥もっとよ!!」


 寸前で躱し、寸前で逸らし、寸前で防ぐ。

 神経が切れてしまいそうなほど集中する。

 

「もっ‥‥と‥‥はやく・‥‥」


 不思議な事が起きている、彼女の言葉がゆっくりと聞こえてくるのだ。

 木の棒を自在に振り回す彼女も、ゆっくり動いているように見えて来る。


「あれ‥‥?」


 今の‥‥下からの攻撃を、躱せた?

 まただ、また彼女の攻撃を躱せた。

 手を抜いてくれているのだろうか‥‥?

 

「‥‥ユイ!? どうやって今のを躱し‥‥」


 違う、彼女は手を抜いているんじゃない。

 そんな事をする人じゃない事は良く知ってる。


「ならこれはどう!?」


 彼女の手を上に掲げ、魔力の矢を作り出す、その数はおよそ20本。

 私も同じように、イメージする。

 彼女と同じ数、同じ密度、同じ形の矢。


「今の一瞬で真似をした‥‥? あなた‥‥面白いわ。」


 彼女が魔法の矢と共に突進してくる。

 決着をつけるつもりなんだ。

 

「はぁぁぁ!!」


 彼女の大振りな攻撃を後ろに飛び躱す、それを見越していたかのように魔法の矢で追撃してくる。

 一本一本の魔法の矢は私の身体、急所を狙い飛ばされるが、私はその矢を迎撃する。

 頬を掠り血が流れるが、気にも留めずに打ち払う。


「全て躱した‥‥?! 魔法の矢を撃ち落とした‥‥!?」


 彼女は驚いている。

 今日までの私は彼女に魔法の攻撃を使わせることはできなかった。

 私は、ちゃんと成長している。

 彼女についていけている。


「来るっ!」


 彼女が大きく後ろに飛ぶ。

 逃がさない‥‥!


「上!? エゲついわね!!」


 私の魔法の矢を上から降らす。

 だがルーティさんはひらりひらりと躱し、さらに距離を取ろうとする。

 それを待ってた。


「届け!!」


 彼女が飛び下がる瞬間を狙って、速度を重視した一本の矢を飛ばす。


「なっ!!」


 慌てて彼女は矢を弾くが、大きく体制を崩した。

 

「私の‥‥勝ちです。ルーティさん。」

「‥‥よくやったわ、ユイ。」


 私の剣は、彼女の喉元に刺さる寸前で止まる。

 この一瞬の為に、足に魔力を集中して一気に距離を詰めたのだ。


「成長したわね。初めて人に負けたわ。」


 私は、一瞬でも初めて彼女を上回ることが出来た。

 ここに至るまで‥‥1年ほど掛かった。


「明日からは全力で行くわよ。いいわね?」

「はい、よろしくお願いします。」


 明日からはまた越えなければいけない大きな壁が出来る。

 それを越えれば、私は一人で生きていくことになるんだ。


「さぁ、お腹空いたわね。その前に身体を洗いましょうか、おいでユイ」

「はいっ」


 暖かくて、厳しくて、優しい。

 母のようなルーティさんとの生活も、あと少しだ。

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