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夢だと思ってた。  作者: アイリス
序章
7/13

第6話 「魔力」

 ルーティさんの作ってくれた食事は、母の味を思い出すような味付けだった。

 故郷の味、というのを、こんなに早く使う事になるとは思わなかった。

 普通なら、県外で働くようになって、久しぶりに帰ってきて口から出て来るような言葉だと思うからだ。

 別にホームシックという訳じゃない、まだそんな事を言えるような状況じゃなかった。


「ふふっ、一杯食べてくれてありがとう、食べ盛りが居てくれると作り甲斐があるわ。」

「その‥‥美味しかったです。ごちそうさまでした。」

「そういえば、いただきます、とか、今みたいに、ごちそうさまでした、って言ってたけど、その時手を合わせてたよね? あれは故郷の習わしなの?」

「あ、そうなんです。私は命を頂くことに対して、感謝をしなさいと、教わったんです。」


 ルーティさんは、私がやったように、ごちそう様。と手を合わせて言った。


「確かに‥‥他の命をもらって、私達は生きている。そのことに感謝をしなければいけないと思えるわ。」

「つい、忘れてしまうことで、段々とやらなくなっていってしまうので‥‥気を付けてます。」

「偉いわね、ユイ。あなたに教えてもらうまで、私も忘れて居たわ。食べられることはありがたい事だと言う事を思い出したわ。」


 目を瞑り、何か物思いにふけるようにカップの飲み物を飲んでいくルーティさん。

 私よりも長い間を生きていることが言葉の節々から伝わる、食べることで大変な思いをしたことがあるのだろうか。

 私はまだまだ勉強不足で、知らないものも多いのだ。


「ユイは今、幾つなの?」

「私はまだ15歳です、背丈も‥‥ご覧の通りです。」

「そう‥‥15歳か、見た感じだとまだ10歳くらいよ?」

「うっ‥‥10歳っ・‥‥」


 日本に居た頃も、見た目以上に幼く見られていた。

 よくお巡りさんに声を掛けられた記憶がある。


「私は幾つに見える?」

「ルーティさんは‥‥20歳とか‥‥?」

「ふふっ‥‥まだまだいけるわね。私は今日で1600歳よ。」


 驚き過ぎてガタッとした。

 その際に膝をぶつけて痛い。


「ユイは正直で可愛いわね。膝大丈夫?」

「は、はい‥‥」

「ふふっ‥‥もう暗くなってきたわね、明かりを灯しましょうか」


 ルーティさんは人差し指をピンと立てて、音楽の指揮をする先生のように滑らかに振りはじめた。

 すると、天井、窓の近く、キッチン、テーブルに、光の塊が産まれ、辺りを照らした。

 明るすぎず、オレンジがかった照明は、どこか安心した。


「これも魔法よ、綺麗でしょ?」

「はい‥‥」

「アレンジ次第で色も変えられるのよ? あっ‥‥そうだ、ユイもやってみる?」

「私でも‥‥出来るんですか?」

「出来るわ、あなたの身体には魔力の流れが見えるもの、やってみましょうよ」


 ルーティさんは、優しい笑顔で一緒にやってみようと言ってくれた。

 私も、使えるなら使えるようになりたい。


「はい、教えてくださいっ」

「いい返事ね、こっちへいらっしゃい。」


 ルーティさんの隣へと行き、2人でソファに腰かけた。

 するとルーティさんは私の手を取って、胸へと手を当てさせたのだ。


「まずは魔力を感じることから始めましょう、いい? 目を瞑って、私の胸に意識を集中してみて。」

「はい‥‥」


 言われた通りに目を瞑り、ルーティさんの胸に意識を向けた。

 すると心臓の鼓動とは別に、”何か”が流れている感覚を覚えた。


「何か‥‥流れてる?」

「そう、それが私の魔力よ、次はユイの魔力を感じさせて」


 次は私の番らしい、ルーティさんの手が私の胸に当てられた。


「‥‥これは‥‥」


 ルーティさんが何か言っていた。

 目を開けてみると、カッと見開いたルーティさんの真剣な顔がそこにあったのだ。


「莫大な量ね‥‥底が見えないほどに‥‥」

「ルーティ‥‥さん?」


 私の魔力は何かおかしいのだろうか?

 

「ユイの魔力は凄いわね、手を当てるとよくわかる。」

「確か‥‥深緑の眼は魔力が見えるとか‥‥?」

「えぇ、あなたが倒れていたときに、確認させてもらったの。これは確認させてほしかったのよ。」


 真剣な顔から、優しい笑顔へと変わったルーティさんは、真剣な時も、笑顔の時も、綺麗だと思った。

 こんな綺麗な人がお母さんだったら、その子供の将来はとんでもない美人になるに違いない。


「この分なら‥‥ユイは物分かりがいいから、すぐにでも使えそうよ」

「ホントですか?」

「えぇ、保証するわ。それじゃあ説明しようかしら」


 先ほどのように、指をピンと立てて指揮を始めたルーティさん。

 すると、先ほどの照明とは別の、真っ白な光の塊が産まれた。


「魔法で大切なのは”イメージ”よ、どんな形にしようか、どういう効果にしようか、どういう風に作り出すか。これが重要ね。」

「イメージ‥‥」

「明るく照らしたいと思ったら、光をイメージするの、そして身体の中の魔力の流れを、そこに向かわせていくの。やってみて?」


 ルーティさんの胸に手を当てて感じさせてもらった彼女の魔力の流れを、今度は自分の魔力を感じて動かしてみればいいのだろうか。

 

「大切なのはイメージよ、集中して。そう‥‥流れを集めていくの‥‥」


 感じる、身体の中を、流れている魔力を。


「そう、上手よ‥‥」


 ゆったりとした流れを、ルーティさんの様に指をピンと立てて、そこに集めるイメージ。

 そして、明るくしたいとイメージする。

 イメージしたのは、私の部屋の照明。


「この光は‥‥」


 LEDの部屋の照明は、正直、少し眩しかったな。

 あれがもうちょっと明るくなかったら完璧だったな。


「すごい‥‥私のなんかよりよっぽど明るいわ。すごいわユイ。」

「で、できた‥‥っ」


 目を開けてみれば、私の理想の明るさとなった光を放つ球が浮かんでいた。

 だけどすぐに、消えてしまった。


「あぁ‥‥消えちゃった‥‥」

「初めてなのに作り出せただけすごいわ!! 次は維持してみましょう? あなたの魔法と魔力を、紐で繋げるイメージよ。」

「こう‥‥かな。」


 コンセントの線のようなものだろうか?

 差し込むイメージ‥‥。


「どうかな‥‥?」


 目を開けてみると、すぐに消えてしまうことがなくなった光の球がそこにはあった。


「すごいわユイ!」


 ルーティさんが私を抱きしめて褒めてくれた。こんな感じでいいみたいだ。


「次は数を増やしてみましょう‥‥?」

「はい!」 


 こうして、夜遅くまで、魔法の練習をしたのだった。



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