第5話 「青い果実」
「そう‥‥異世界から‥‥地球? から来たのね。」
「はい‥‥信じられないですよね‥‥?」
「そんなことないわ、こんな辺境の森に、子供が倒れているなんてあり得ないんだから。信じるわよ。」
泣いては泣き止んでを繰り返し、その間ずっと抱きしめてくれていた女性は、私の言う事を信じてくれた。
にわかには信じがたい話でも、真剣に聞いてくれた彼女。
私は、不幸なのかと思ってたけれど、そうでもないのだと思えた。
「これさっき取って来たの、地球にはこんな木の実はある?」
「うーん‥‥見た事ないですね。」
「そうなんだ、これはね、ここら辺一体でしか実を付けないのよ。甘くておいしいの。」
ブルーベリーのような青黒い色を持つリンゴのような果実。
一見すれば、不気味な果実だが、美味しいらしい。
「食べてみて。元気が出るわ。」
丸ごと差し出され、恐る恐る噛り付いてみる。
すると、口の中には桃のような甘さと香りが広がる。
それでいて歯ごたえがあり、とても美味しい。
「ふふっ、笑顔が見れてよかったわ。」
顔に出ていたようで、母親のような目で私を見て居る。
少し気恥ずかしかったが、優しさを感じて、胸が温かくなった。
「そういえば自己紹介をしていなかったわね、私はルーティ・セリア。エルフよ。」
「私は、小林 唯と言います、助けてくれて‥‥ありがとうございます。ルーティさん。」
「ルーティでいいわよ、ユイって呼ばせてもらうわね。」
「はい‥‥」
それからしばらく、私が地球に居た頃の話をした。
ルーティさんはとても興味津々で、トイレの話をしたときが一番羨ましがっていた。
水洗トイレの説明をしたら、「魔法でどうにかできるかしら‥‥」そう言いながらニコニコと聞いていた。
「ユイの住んでいたところはとても文明が進んでいて、魔法がないけれどその代わりに科学が進歩していたのね。」
「はい‥‥魔法、物語の中だけの存在でした。」
「ふふっ‥‥素敵なところね、地球ってところは。」
終始、お母さんのような顔をしていたルーティさんは、私の今の見た目について話してくれた。
「今はここに鏡がないから、口伝いになってしまうけれど、あなたは人間とは違う存在ね。」
「‥‥なんとなく、そんな気はしてました。」
「私はエルフなんだけど、エルフだけが持つ特徴をあなたも持っているから、”多分”エルフだと思うわ」
「多分‥‥?」
エルフという種族だけが持つ特徴?
「私達エルフは皆、金髪と緑の眼を持つの、深緑の眼と呼ばれていてね、魔力の流れや風の動きがわかるのよ、人間は魔眼と呼ぶ人も居るわね。」
「深緑の眼‥‥。」
「魔力の流れが見えるということは、魔法に高い適正あるという証拠でね、魔力の流れの”色”でその人がどの系統を使うかなんてこともわかってしまうのよ」
私も恐らくはエルフという種族になっている、先ほど教えてくれたエルフの特徴には当てはまるらしいが、多分と言ってた。
「ユイの髪の毛の色が見た事もないくらい真っ黒で、毛先だけが金髪だし、目の色も左右で違うのよ。片方は赤い、片方は私達と同じ緑の眼なのよね。」
「オッドアイなんですね‥‥川の水だとあまりよくわからなくて。教えてくれてありがとうございます。」
「いいのよ、今は自分の状況を分析して、慌てない様にしないとね、魔法については食事をしてから話しましょうか、お腹は空いた?」
青い実をお腹に居れたというのに、またすぐお腹が鳴った。
その様子だと空いてるようね、待っててねと言い、ルーティさんはクスクスと笑いながら、キッチンでリズムを奏でる様に料理を始めた。
その後ろ姿が、いつか見た母の後ろ姿と重なって見えた。