第2話 「召喚」
丁寧って難しいですね。
「毒などは入っていない、安心するがよい。」
「‥‥はい」
そうは言われても、こんな状況で手を付けられる人なんているのだろうか。
お腹は空いてると思うけど、わーい、美味しそう何て言って箸を持つなんて無理だ。
「お前の頭の中を覗いて、近日中に食べた物を再現しただけだよ。」
頭の中を覗いた‥‥? じゃあ心の内だってわかってるってことじゃないか。
言われ見てれば、こちらの言いたい事を理解した上で喋ってる節があることから合点がいく。
「年齢の割には落ち着いている、幼少期から他人との距離を置きがちだったのだな。父と母、どちらも共に働き、家には猫が一匹、趣味は無し、人間の割りには少しつまらんな。」
そう言われても仕方が無い。
だが人のプライベートを勝手に覗き見するのはどうかと思う、言わなくても良い事を言う必要なんてどこにもないのだ。
「驚きと冷静さが半分という所だな、あと怒りも少々と言った所だろうか?」
頭の中が分かると言う事なら、そんな確認をするように言わなくたっていいはずだ。
一体何がしたいのだろうか、全くわからない。
「いい加減に何か喋ってみたらどうだ? 唯。」
「‥‥言う必要があるんですか?」
「お前には口がついているだろう、人間とは言葉を使って触れ合うものではないのか?」
先ほどから「人間」という単語をよく使う事から察するに、自分は人間ではないと言っているようなもので、人間以外とのコミュニュケーションの取り方など知る訳がない、猫や犬とは違って言葉を使う「人間」以外の生物。
現実ならニュースどころの話じゃない、地球外生命体みたいな大げさな話になったっておかしくはない。
「あの‥‥」
「なんだ?」
「なんで私は、ここに居るんですか?」
私は言葉が上手ではない、率直に思ったことをそのまま言ってしまうのだ。
悪く言えば何も考えずに言葉を喋ってるともいえるが、今はそんなネガティブな事を言ってる場合じゃない。
「私がお前をここに呼んだからだが?」
「私はベッドで眠ってたはずです、これは誘拐ですか?」
「誘拐ではない、召喚だ。」
話が噛み合って居ない、これが誘拐ではなく何だというのか?
私はまだ夢を見て居て、夢の中の人物とコミュニュケーションを取っているのか?
夢の中ならば、椅子の手触りや料理から漂ってくる香りを認識するなんて出来るわけがないと思う。
常軌を逸してるせいでまともに考えられない。
「召喚‥‥?」
「そう、召喚だ。」
「召喚とはなんですか‥‥?」
「異世界であるお前達の住む地球から、私達、神の居るこの場所に連れて来ることだ。」
聞き間違いだろうか、今、相手は異世界と言ったのではないだろうか。
コスプレをした頭のおかしい人がそんな狂言を言ってるだけなら、すぐにわかる。
だが、今私の居る部屋、私の住む世界では見た事もない空間。
その言葉を信じさせるには十分で、疑う暇や余地などは一切与えてくれない。
「‥‥これは夢ですか?」
「現実だ、認めたくないようだが、受け入れるが良い。」
「こんな無茶苦茶を受け入れられる訳が‥‥」
「その割には落ち着いている。頭の中での答えはもう出ているだろう。」
確信を突かれ、何も言えなくなってしまう。
人間は、度を越えた恐怖や怒り、驚きを感じた時、元居た自分が壊れてしまう場合がある、それとは別にもう1つたどり着く場所がある。
何事にも動じなくなるほど冷静になる。私は今もう1つのほうにたどり着いてしまっていた。
「頭の回転が速いな。思考を巡らせ身の安全を第一にする保身。正しい判断だ。」
人間は実態を見た事もない存在を作り出し、信じてしまう。
神様もその想像の1つだ。日本には数えきれないほどの想像上の神様がいるが、目の前に居るのはそのどれにも当てはまらない。
死に間際の人が、神様を見たと言って以前いた自分とは別人のような行動を取ったりする場合がある。
私もそれに当てはまるのだろうか?
「私がここに召喚しなければ、お前は入学式に向かう途中で死ぬ。死因は仕事に疲れ切り、家族の元に帰ろうとしていた男の居眠り運転だ。生き残る可能性は0であり、男は家族と離れ刑務所で一生を過ごす。」
「‥‥信じられる訳が‥‥」
「頭では理解しつつも認めたくないようだな。では、見せてやろう」
男とも、女とも言えない手が私に向かって伸びてきて、頭に手を置かれる。
なぜか、抵抗はできなかった。
抗わなかった訳ではないが、拒絶よりも早かったのだ。
誤字脱字、改善点があれば、教えてください。