八話
時は少し前に遡る。
「こういう感じになるのね。」
エミリアは独りごちた。
目の前では、華やかなお祭りが開催されているが、今エミリアの周りではそれよりももっと華やかな少年達、つまり攻略対象達、が困るような状況に置かれている。
金髪のデイヴィッドは、ひざから赤い血を流しているし、銀髪のアダムは、兄とはぐれてしまったようだ。
青髪の……うん、あとは長くなるので割愛しよう。
まぁ、ともかくそういう状況なのだ。
元となる乙ゲーで、初めて選択するのがこのシーン。
【エミリアは、お祭りにきた。そこで、困っている男の子を見つける。その困っている男の子の髪の毛の色は?
1 金色 2 銀色 3青色 4赤色 5緑色】
基本的には、ここで選択した少年と恋愛することになる。
他にも、逆ハールートや、隠されたキャラクターもいることにはいるのだが、私は迷わず【1 金色】を選択するので、気にしないことにしよう。
「どうしたの?」
私は少し首を傾げて尋ねる。あぁ!この美少年の美しいひざに傷がっ!!なんてこと!
「あら、血が出てるわ!こっちに来て!」
私はデイヴィッドの腕を掴んで歩き出す。その時、これが現実なのを改めて実感して、なんだか嬉しい気分になる。
それに、矢張り。
うふふ。デイヴィッドルートが一番萌えるのよね。
私は、広場に向かって歩き出す。噴水の周りにあるベンチで手当をするのだ。
はぁ、すべすべ。ほんとに無理。私、前世でどれだけクリームやらなんやら塗りたくってもここまですべすべにならなかったわ。
いやぁ。金髪も相変わらずさらさらで、そのおめめもどこまでも深いブルー。至極整った顔って、良いわよねぇ。
そうはいっても、私は乙女ゲームのヒロインなんだから、髪はさらつやのシルキーピンクだし、顔立ちも可愛い。
乙ゲー最高!
思わずガッツポーズをしそうになるのを、デイヴィッドと手を繋いでいるのを思い出したところで、なんとか思いとどまった。
「ここに座って。」
私は、ベンチを指さす。
その時だった。デイヴィッドは、こう、言ったのだ。
「乙女ゲームのヒロイン?」
そのどこまでも澄み切ったようで、奥の深さがよめない瞳に見つめられて、どきっとしてしまう。
けれど、そんな場合ではない。
なんで、デイヴィッドが知ってるの?
私は、一番考えたくない可能性に辿り着く。
「もしかして、貴方、転生者なの?」
「デイヴィッド殿下?」
デイヴィッドの言葉に気を取られすぎているのが悪かったのかもしれない。その銀髪に気付くのが遅れた。
「ア、アダム」
デイヴィッドは、困惑したようにアダムを見つめる。
「殿下はお忍びでいらしたんですか?姿を変える魔法を使ってますね。魔力が同じなのでわかりましたけど。」
アダムとは、まだ、この時点でデイヴィッドは接触していないはず。というか、デイヴィッドが同世代の貴族と初めて会うのは学園のはずだ。
つまり、シナリオが変わっている。
もう、確信だった。
デイヴィッド・フォスター、
彼は転生者だ。
私は迷いなく、もう一度彼の手を掴むと、急いで駆けだした。デイヴィッドのひざは擦りむいたばかりなので、痛いかもしれないが、こればかりは我慢してもらわなくては。
取り敢えず、アダムの、もとい人目に付く場所から離れて、事情を問いたださなくてはならない。