七話
僕は、大抵時間を持て余している。
話す人もいないし、まだ、勉強はいい、と言われているので、本を読んだりするくらいしかやることが無い。
それで、一度だけ王宮を抜け出したことがあった。
絵本で見た市民の格好に出来るだけ似せた洋服を着て、塀のとても小さい穴から抜け出したのだ。
初めて見る街並み。王宮の外の人々の暮らし。
生憎お金が無くて、買い物をしたりするまでには至らず、散歩をしただけだったけれど、それはとても新鮮で楽しかった思い出だった。
僕は空気として生きることを心掛けてきたし、魔法で少しだけ姿形を変えて歩いていたので、目立つこともなかった。だが、その時は、王宮を抜け出したことがバレてしまうことが怖くって、すぐ帰ってしまった。
そして、今日。
僕はとても悩んでいた。
城下では、お祭りをやっているらしい。
廊下で話している声が聞こえたのだ。
お祭り
なんて魅力的な響きなんだろう。
以前は、普通の日に歩いただけだったけれど、お祭りなんて、楽しいだろうなぁ。
そう考えている時には、もう既に答えなんて出ているようなものである。
僕はメイドたちが忙しい時間を見計らい、「中庭に行ってくる。」と、部屋を出た。
「うわぁ!」
思わず声が漏れて、慌てて口を抑える。
きょろきょろと辺りを見渡すが、誰も不審に思っていないようだ。
ほっとして、僕は歩き出す。
街は活気に満ちていた。お肉を串刺しにしたものや、ドーナツみたいなもの、冷たそうな飲みものや、アイスまである。何でもかんでもが、露店に並んでいて、僕は色んな屋台の前に立っては覗いていった。
何もかもが珍しくって、僕もふらふらしていたのが悪かったのだ。
「おっと、悪ぃ。」
その声が聞こえた頃には僕は転倒していた。誰かが通り抜けざまにぶつかったのだろう。膝からは血が出ていた。
「どうしたの?」
上を向くと、心配そうな顔をした可愛い女の子が立っていた。桃色の髪の毛をした子だった。
「あら、血が出てるわ!こっちに来て!」
彼女は僕に手を差し出して、立ち上がらせるために引っ張る。
その時だった。
『うふふ。デイヴィッドルートが一番萌えるのよね。』
?
この子の声だけれど、この子の声では無い。
また、あの不思議な声だった。