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四話

遠くから、声が聞こえた。

『ねぇ、なんでこの子に、あんな力を授けたの?人の子に、必要無いでしょう。』

柔らかく、優しい声。

『いやぁ、ちょっとした悪戯でさぁ。スターチスの花を床に置いてたら、誰か転ぶかなぁって。知ってる?淡い紫色のスターチスって“悪戯心”って意味があるんだぜ。ユーモアも忘れないようにしないとな!』

少しふざけた、でも楽しそうな声。

『それがどう関係あるの?』

優しい声もその物言いになんとなく苛立ったようだった。

『いやいや、怒るなよ。それでさぁ、今回はある国の王宮に置いてたんだけど、転んじゃったのが王子で、しかも、頭打って失神しちゃったんだよ。』

『なんてこと!』

『な!だから、ちょっとやりすぎたかなって思ってさ。その子が起きるまで過去を覗いてたんだ。何かしらのお詫びをする為に。そしたら、かなり勘違い?というか、すれ違いが起こっててね。俺は、それを改善する為に、あの力を授けたんだよ。』

『……本当ね。なんと言うか、ええ、酷いわ。お互いのすれ違いが本当にむずむずする。』

『だろ!?』

『そうね。今回は、この子がちゃんと幸せであれるように見届けましょうか。』

『やったぜ!』





そこで、目が覚めた。

なんだか、不思議な夢だった。

映像はなくて、ただ音だけが通り過ぎていった夢。



今は昼過ぎだろうか。

もう、眠たくないし、どうしよう。

ベッドから出れないとなると、出来ることは限られる。


そう思案していた所に、ノックの音が聞こえる。

「どうぞ。」

そう言うと、そーっとドアが開けられ、アンが現れた。

「デイヴィッド様。婚約者のギアナ様が来られています。どう致しましょうか。」

困った。今日、僕は部屋ないしベッドから出られない。

「どうすればいいだろう?」

首を傾げてしまう。

「デイヴィッド様へのお見舞い、と言うことでこちらに来られています。ので、ベッドの上でも問題ないかと。

そう、ギアナ様が仰っています。気分が優れないなら、今日は控えますが、とも。」

「大丈夫。そう伝えて、こちらに通して。」

「承知致しました。」


暫くすると、ギアナが現れる。

艶やかな黒髪を緩く巻いて、ハーフアップにし、ミントグリーンのドレスに身を包んでいる。ひと目見ただけで、その愛らしさが伝わるだろう。


黒髪黒目の特徴は、王家に限ったことではなく、この国の貴族全体がその特徴を持つ。上位貴族の方が烏のような黒で下位貴族になっていくと、段々と栗色のようになっていく。

例外はあるが、大抵がその風貌なので、僕の容姿は貴族が集まる場では、非常に人目を引いてしまうのだ。


ギアナは、きちんと淑女の礼をしてから顔を上げる。そして、尋ねる。

「体調は、もう宜しいのですか?」

「うん、心配してくれて有難う。」

僕を心配してくれた様子が素直に、嬉しい。

しかし、僕がふっと微笑むと、ギアナは途端に唇を食いしばり、そっぽを向く。


傷つくなぁ。


社交辞令だったのかもしれない。

婚約者を心配する様子を見せるのは、外聞を考えると当然のことだろう。


そっぽを向いたままギアナは後ろに隠し持っていたものを取り出す。

「お見舞いですわ。デイヴィッド様は細くて白くって、頭をぶつけただけで一週間も起きないんですもの。もう少し、栄養のあるものを食べた方が宜しいのではなくって?」

オルティス公爵家が、最近交易の方で力を入れている“桃”と言う果物だろう。

「べつに、べつに、花言葉を気にして選んだりなんてしてませんわよ。」

顔を真っ赤にしている。どうしたのだろう?

「うん、有難う。」

食べるのは初めてだ。どんな味がするのだろう?僕は、楽しみで笑みが溢れてしまう。

「……っ。では、そろそろお暇致します。病み上がりに押しかけたりして申し訳ありません。」

ギアナはもう一度淑女の礼をしてから、くるりと踵をかえした。そのとき、なにかにつっかえたのだろう。ギアナは前傾姿勢になり、転びそうになった。

僕は、咄嗟にギアナの手を掴む。彼女が転ばないように。


『これ以上耐えられない!何あのお顔!反則でしょう、心臓が持たない。にやけそうになるのを我慢するのももう限界よ!それに。嗚呼!緊張して、デイヴィッド様とお話するとどうしても嫌味ったらしくなってしまうわ。もう、嫌になる。

あれ、転ぶ?

あああああああ!え、?今デイヴィッド様に腕を掴まれている?転びそうになったことですら恥ずかしいのにぃ。』



またもや。

ギアナは口を開いていないし、こんなことを言うはずもない。



「申し訳ありません、デイヴィッド様。もう大丈夫ですので、手を離して頂けますか?」

「あ、嗚呼。ごめん。」

「では。」

ギアナは、顔を真っ赤にしながら退出した。


「お見舞い品を頂いたんですか?召し上がられます?」

「うん?」

僕は考える。さっきの声は、なんだったのだろう、と。

「うーん?」

僕はひとりで唸りながら考えたが、何も分からない。


「デイヴィッド様。お持ち致しました。」

アンから声を掛けられた。

「え?」

「ギアナ様から頂いた桃でございます。」

「あ、有難う。」

桃はほんのり甘い味がした。

桃の花言葉のひとつに、“わたしはあなたのとりこ”と言うものがあるそうです。

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