一話
ベッドの上で、頭を打ったことを思い出す。
でも、転んだのは温室だったはずだ。誰かが僕に気付いて運んでくれたのかもしれない。心の中で、その優しい誰かに感謝しながらも、辺りを見渡す。
カーテンは開いていて、陽が差し込んでいる。東向きの窓だから、きっと朝日だ。僕が転んで意識を失ってから、そんなに経ってないんだ、ということに安堵した。
だって、そんなことを色んな人に知られたって心配すらされないのはわかっている。なら、誰にも知られなかった方がいいだろう。
僕はベッドから降りる。
何故か酷く喉が渇いていた。
水差しに水を入れて貰う為にも、メイドを探さなきゃいけない。
王宮の優秀なメイド達は、忌み嫌う僕に対して、嫌な顔をすることも無く、虐めるわけでもなく、ただ僕と距離をとる。しかし、彼女たちは、仕事をきちんとこなしてくれてるので、僕がなにかをお願いすると、少しだけ固まったあと「わかりました。」とだけ言ってすぐに実行してくれる。
あまり、手を煩わせたくない、とは思うけれど、使用人に任せないで自分でやろうとすると、「私どもがやりますので。」と、無表情のまま言い、僕の手から仕事を奪っていく。きっと、僕には入らせたくないところなんかもあるのだろう。
それに気が付いてからは、彼女たちに必要最低限のことをお願いする、という方法で生活してきた。
ベッドを降りて、扉の方へ向かう。
その時、視界に姿見が入った。そして、“色落ち”の僕の姿も。
この国の王族は皆、黒髪黒目。父様も姉様も、みんな、黒髪黒目。
しかし、母様は隣国の姫で、金髪碧眼だった。僕だけ、その性質を受け継いでしまい、母様は亡くなって、金髪碧眼は僕一人だけ。
それも、僕が厭われる理由の一つだろう。僕のことを“色落ち”と誰かが言うのを聞いた。きっと、その通りなんだろう。
その時、扉が開いた。
「デイヴィッド様?」
メイドのひとりだ。アンと言う名前の、鳶色の髪を持つ女のひと。
「あ、お水を貰えますか?」
首をこてんと傾げて尋ねる。
「デイヴィッド、様?」
「うん?だから、お水を……」
「デイヴィッド、、様?」
「喉が渇いちゃってね、お水を貰いたいん……」
「デイヴィッド様ですね!?」
「そうだよ、あの……」
「少々お待ちください!」
アンは、そう言うと、お水がある方向と真逆の方向に駆けていった。
あんなあからさまに僕の言うことを無視すること、今まで無かったんだけどなぁ……。
やはり僕は嫌われているんだろう。