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短編(ホラー、パニック)

キミは喋る人形

作者: くまのき

「わたし、おともだちがほしいの」


 人形が語り掛ける。

 悩める僕を、励ましてくれているんだね。


「わたし、おともだちがほしいの」


 キミはあの子にとても似ているね。

 僕が今気になっている、あの子。


 いつも、駅で出会うんだ。

 彼女は小さな歩幅で歩いている。

 いつも母親に手を引かれている。

 いや、父親だったかな。

 どちらでも良いか。

 とにかく、大人に手を引かれて歩いている。


 そんなあの子に似ているキミ。

 手の平に乗せて、可愛がってあげよう。


 それでキミは、いつから僕の傍にいるんだっけ?

 思い出せないな。

 まあそれもどうでも良いか。


 キミも小さくて可愛いね。

 手の平に収まるサイズ。

 僕の上着のポケットにでも入ってなよ。


 ほら、今日もあの子がやって来た。

 いつも通りにやって来た。

 いや、いつもとは違うかな。

 今日は一人だ。

 一人で歩いている。


 どうしよう。

 これは、仲良くなれるチャンスかもしれない。

 いつものように傍に親がいたら、素直にお話出来ないものだからね。

 声を掛けてみようかな。

 キミはどう思う?


「わたし、おともだちがほしいの」


 そっか。

 そうだね。

 尻込みしていても仕方が無い。

 話しかけてみよう。


 やあ君。

 今日はお父さんと一緒じゃあないのかい。

 それとも、お母さんと一緒じゃあないのかい。

 そうだ、面白い物を見せてあげるね。


 ほら、僕の右手の人形。

 君にそっくりだろう。

 ポケットに入れておいたから、腕が少し曲がってしまっているね。

 でも、こんなに君にそっくりだ。


 おや、不思議そうな顔をしているね。

 どうしたのかな。

 似ていると言ったのが気に障ったのかな。

 謝るよ。


 そうか、確かに君は人形なんかとは違うね。

 人形は片手で軽々と持ち上げる事が出来る。

 でも君は、こうやって両手でしっかりと支えてあげないとね。


 やあ、あなたはこの子のお父さん。

 お母さんだったかな。

 それともお兄さん。

 まあ良いや。

 どうもこんにちは。


 何故そんなに怒っているのですか。

 落ち着いてください。

 この子も怖がっている。


 そうですね、僕は確かにあなたの知り合いでは無い。

 でもこの子の事は知っていますよ。

 いつも見ている。

 毎朝見ている。


 ああ、あの子を連れて行ってしまった。

 何が気に食わなかったのかな。

 金輪際近づくな、だってさ。

 どうしてだろう。

 キミは分かるかい。


「わたし、おともだちがほしいの」


 そっか。

 また慰めてくれるのかい。

 ありがとう。

 そうだね、また明日になればあの子に会えるよね。


 じゃあ、僕のポケットに戻るかい。

 おや、入らない。

 そうか。

 じゃあ抱っこして帰ろうね。


 そして次の日。

 あの子に会えなかった。

 次の日も、また次の日も。


 何かあったのかな。

 病気とか。


 そう言えば、あの子の家がどこにあるのかも知らないや。

 お見舞いに行く事も出来ない。

 教えて貰っておくべきだったなあ。


 そしてまた会えない日々。

 これでもう何日経つだろう。

 もしかして、もうあの子に一生会えないのかな。

 それは寂しすぎるよ。


 会えない。


 もう、本当にあの子に会えないのか。


 キミはどう思う。


「わたし、おともだちがほしいの」


 何を言っているんだい。

 いつものように、僕を慰めておくれよ。


 ほら。抱えてあげよう。

 両手で、しっかりと支えてあげる。


「わたし、おともだちがほしいの」


 おともだち。

 キミの言う事が理解できない。

 何故僕を慰めてくれないんだい。

 いつものように。

 いつものように。


「わたし、おともだちがほしいの」


 ああそうか、そうだね。

 ただ一方的に慰めを求めるのは間違いだった。

 よく考えれば、キミにも要求という物があって然るべきだね。


 分かったよ。

 僕がキミの友達だ。


「おともだちに、なってくれる」


 ああ、なるとも。

 友達だ。

 そう、友達なら僕を、










「自殺ですか」

「それは分からない。遺書も無い」

 若い刑事の問いに、老刑事が答えた。

「しかし首を吊っていたわけでしょう。彼自身で縄を準備した形跡まであるとの事ですが」

「うむ。それに最近の彼は、精神的に随分と追い詰められていたらしい」

 老刑事はそう言って、一冊のメモ帳を手渡した。

 若い刑事はそれを読む。周辺への聞き込み結果が書いてあった。

「なるほど。人形を見てくれと言いながら、何も無い右手だけを見せていた、と。違法薬物の疑い有りですね」

「ああ。駅で少女に付き纏い、急に抱きかかえ、腕をねじ曲げようともした」

「やはり、錯乱の末の自殺なのでは」

 老刑事は、首を横に振った。

「だが、首に縄のあとが付いていないんだ。代わりに、手で絞められたような痕が残っている。小さな手の痕。小さな、小さな。まるで人形のような」

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