第7話 新しい世界に馴染む男
新しい日々が始まった。
村の一員として生活するために。
助けてもらった恩返しをするために。
―――――――
「お~い、これを貯蔵庫まで運ぶの手伝ってくれ~」
「ちょっと待ってて、こっちの仕事がまだあるからさ」
「こっちも後で手伝ってくれんか~?」
「これ終わって貯蔵庫に運び終わったらね!」
この村に来て以来、俺は村の仕事を手伝っている。手伝っているとは言っても簡単な荷物運びと村の周りの哨戒に出てる程度だから大した仕事ではないのだが……実際初日にウルフと出会ってから魔獣には出くわしたことが無かった。本来はこの辺は殆ど出ないらしいというのは本当のようだ、相当俺の運が悪かったらしい。
手伝いを続けていたら気が付けば日が暮れている、そんな忙しくも新鮮な日々を送るのも悪くない。村も人口が少ないとは言え夜は魔法を使った街灯が辺りを照らし真っ暗よりはマシな程度の明るさは確保されていて、夜道も歩かないに越したことはないが宿屋が少ない為に人の出入りも少なく村の人間が大半なのもあってか治安的にも歩いても問題ない。そんな村での生活は数週間近くに及んでいた。
「でも、それももう少しでお別れなんだよな」
感慨深そうに呟く。と言うのも、俺の『記憶が無いこと』と『この世界の技術ではない、俺の世界の技術の話』に興味を持った教会の人間がアリシアを通じてコンタクトを取る事になったからだ。その相手は王都にいるらしく、アリシアの実地試験期間の終了と同時に2人を王都に来るように要請を出した。「シスターが去ったらどうするんだ?」と聞いた所、代わりのシスターが来ることになっているらしく外に派遣されるシスターと王都で働くシスターと分かれるらしい。派遣されるシスターは優れた人材と新米の半々、王都で身に付けた医療の知識を地方で根付かせる役目を任されるとか。
王都ヴァルトベルト、それがこの国を治める王がいる街。行ったことがある村人から聞いた話だと街というよりは城塞都市に近いらしいが、現物を見ないとなんとも言えない。期待と不安を抱えながらも一日一日をしっかりと踏みしめながら過ごしていく。そんな日々を過ごすのはとても充実している。
この世界に来てしまった時、名前も何もかも思い出せなかった時は呆然としていたが今となっては遠い昔のように感じる。ほんの数週間前のことだが本当に遠い昔のような感覚だった。
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俺はこの世界で生きていく。
その力を付けなければならない。
だから今は、前へ進まなくては。
一章はここで終わりとなります。
見てくれた方、ありがとうございました。体力があれば続きますのでその時はまたよろしくお願いします。