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樹界民話  作者: 海月人
再びの芽生え
2/3

「いざ樹海」

「ここぐらいか?...」


歩き疲れて張り付いた喉にアクエリ○スを流し込む。


「最後の晩餐にしてはぬるいな」


そう口に出すも、今までの疲れを癒してくれた

いわば冥土の土産に対し自然と笑みがこぼれる。

まぁアクエリ○スだが。


土の上に腰を下ろすと、

今までの疲れがどっと押し寄せてきた。

木漏れ日の温もりを顔に感じながらそっと目を閉じる。

すると、さっきまでには気づかなかったような音が飛び込んできた。

葉擦れの音や鳥の鳴き声。だが、そこに人の作り出す音は無かった。


ここは日本でも有数の規模の樹海、

こんな森深くで人に出会うことはまず無い。

そんな場所に自主的に足を運ぶ理由は一つ。

「自ら命を絶つ」

それだけだろう。

俺も例に漏れずその為に来た。

ピクニックなどでは決して無いのだ。


だが、久しぶりの森は思いのほか刺激に溢れ、

憔悴した心に響きかける物があるのも事実だ。


ふと、足下を見ると木漏れ日が水玉模様を作っていた。

この自然音の心地よさと言い、風景の美しさと言い。

およそ人を喰うと比喩されるような森とは思えない。

人を喰う森の見せる美しい部分に、

どこか滑稽さを覚えるほどだ。


と、大義を忘れかけていた、

座り込んでいる場合では無いのだ。


「っと!」


少し座り込みすぎたようだ、

目の前がチカチカして、体が前につんのめる。



それも、計画のうちだが。


首吊りは楽な方法だが完璧ではない。

気を失うまでの数分、

息をできない苦しみと格闘することになる。

しかし、そんな苦しみを短くする方法がいくつかある。

その中の一つが、暫くしゃがむことにより、

一時的に脳に行く血液を遮断する。という訳だ。


「俺の最後は、誰にも邪魔させない」


そう、一種自己暗示の様に呟いた、

頭に血が回る前に早く準備を始めよう。

どうせなら日陰がいいな、

できるだけ人の目につかない方がスマートだろう。

そんなことを考えながら周りを見渡すと

一際大きく影を落とす木を見つけた。

よしっ、ここに決めるか

手ごろな木を見つけ、縄を取り出しくくり付ける。

これで準備は完了。随分あっさりとしたものだ。


それにしてもでかい木だなぁ...


俺は影の主を見つめる。

...こんな俺も木は、好きなのだ。少なくとも犬や猫よりかは遥かに。

いや、それは比べる対象ではないのかもしれないが。

幼い頃はよく

庭の木に名前を付けたりもしたものだ。

大体は桜ならサッちゃん、のような簡単な名付け方だったが。


そういえばこんなことをしている場合じゃ無かったな。

血が回りきる前に早く済ませよう。

低い場所にある幹に足をかけ、

作った輪に頭を通した。

準備といえばこんなもんだ、実ににあっさりしている。

しかし、自ら望んでいても、やはり最後は怖いものだな。

だが、そろそろ縄を持つ手が限界に近づいてきた。

なにせ手で縄を持ち海老反りの様な体勢なのだ

戻るにも戻れない。


「ふぅ...」


小さく息を吐き幹を蹴った。


さっきまで頭に霧がかかっていたようだったが、

俺を支える木のギシギシという悲鳴が

俺を現実に戻させた、

もう、足は宙を蹴っていた。


「迷惑かけてごめんな。腐るまで我慢してくれ...」


そう言おうとしたが、言葉が空に出ることは無かった。

不思議と呼吸は苦しくない。前準備のおかげだろうか、

首吊りは十数秒で意識を失うと聞いたことがある。

俺の意識ももうすぐだろう。

ふと、最後に木が見たくなった、

瞑っていた目を開くと

丁度視線の先にあの巨木が聳えていた。



あぁ、やっぱり木はいいなぁ...

俺も次は木に...



意識を失う刹那

俺は巨木に飲み込まれたように感じた。












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