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亡霊残響  作者: K/A
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森の中にて

説明回+のほほん的な?

 10年前、戦争があった。

 いや、有史より争いなど何度もなくあった。

 

 アラルガンド大陸北東に位置した国家、スクルガンド帝国。彼らは土地を、資源を、過去に追いやられた誇りを求めて南へ侵攻を繰り返した。

 しかし彼らは時代の変化に気づかなかった。

 争いを善しとしないキルニア共和国の仲介により、互いに血で血を洗う歴史を持つロンバルト王国とメルクタル連邦でさえ緩やかな融和へ進みゆく時代。彼らはその政策に不満を持つ者たちへのガス抜きとして格好の獲物であった。

 大陸連合に対する敗戦に次ぐ敗戦によって小国に戻りつつあった彼らは、魔導の禁忌とされる領域を武器に、最後の戦いを挑む。

 そして彼らは猛々しく戦い、ことごとく惨敗した。

 帝都にて魔導における最大の禁忌を行使し、国の消滅を厭わず戦い続けた彼らの敗北によって、ようやく大陸に平和が訪れる。これをのちの人々は統一戦争と呼んだ。

 しかし、彼らの残した爪痕は大きい。戦後、名前すら隠匿されるに至った禁忌の行使により東北地域に生息する生物の異形化。それに追い立てられるように南下する難民。世界は今だ混迷の中にある。




「ここを今日の野営地とする。」


 凛とした声で荒くれどものに指示を出す女の声が森の中でこだましている。雌豹を思い浮かぶしなやかな四肢と夕暮れの光と赤銅の髪が相まって、優しくも力強く暖かい印象を持つその姿はまさに、神話における戦女神を彷彿とさせる。惜しむらくは、いささか、若干、ある部分が慎ましいことであろうか。そう、俗にいう貧乳であry


「しかし団長、完全に掌握出来ていないこの森で野営はいささか危険ではないですか?」


 と、問いかける団員に対し、アイエス兵団団長たるイヴ ・エッフェルは「それも訓練の一環だ」と返答しつつ、ここ数日の戦果を思い浮かべる。あのさえなさの中に見え隠れする成熟した目を持つ仲介所の店主に宿代代わりに半ば押し付けられた依頼はほぼすべて達成済み。その報酬から雑費等々を差し引いて残る残額は…マイナスである。そう、マイナス。つまりは赤字。つまり宿代が不足する。不足するということは払えない。払えないということはつまり、また宿代代わりに塩漬け依頼をやらされるということである。

 まずいぞ、非常にまずい。この負のスパイラルから抜け出す方法を考えなければ…負のスパイラルを抜け出すために思考のスパイラルに陥っているしかめっ面の彼女を遠目に見た団員達が


「団長はどうしてあんなに殺気を振りまいているんだ?威圧感すっげーきついんだが。」


「そりゃ、鮮血っていう異名持ちなんだから異形の気配で血がたぎってんじゃね?」


「「団長おっかねえ。」」


 と、ひそひそ話しているのに対し、「やべぇ、団長がまた知恵熱だすぞ。」とあせる古参の団員たちであった。

 そう、イヴ ・エッフェルは脳筋である。10年前に勃発した統一戦争において、12歳の少女が無断で自前の騎士団を率いて最前線へ殴り込みをかけるという鮮烈な初陣デビューを果たし、血化粧を纏い戦場にて踊り狂ったように戦う姿を見た連合国将兵から『鮮血の舞姫』という名で恐れられた逸話を持つ彼女は、考えるより先に体を動かすのが得意で、理論派より実践派で、考えるのが少々苦手な脳筋である。

 そのような、思考のラビリンスに捕らわれたせいで頭からいまにも湯気が出そうな彼女に対して、でモノクルを左目にかけた小柄な男が見かねて声をかける。


「団長、そんな顔でグルグル思考してもいい答えなんか出てきませんよ。まずは目の前の課題をこなしましょう。」


「そうはいってもな、これは重要なことなんだぞアンドレイ。早く答えを出さないと宿代という名の鎖でこの地に縛られてしまうぞ。」


「別にいいじゃありませんか。この前の大規模討伐の団全体の休養を兼ねつつ、体がなまらないよう適度に訓練できると前向きに考えましょう。」


「ふむ、確かにそれも一理あるか。うむ、それでいこう。」


 納得して頷く団長に笑顔なアンドレ。しかしこの一見的を射たような考えであるが、結局は答えなんかでないなら先送りにしてしまえというものである。

 脳筋の部下もまた脳筋であり、その部下に丸め込められてしまう団長はチョロチョロのチョロインであった。


 そんなこんなで夜は更けていく。













「ふむ。対象を補足した…か。」






 

 

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