出立前
初投稿となりますので、生暖かい目で見守ってくださると幸いです。
「よう、最近調子はどうだい?」
ここいらでは見慣れない男に馴れ馴れしく話し掛けられ、酒場兼寄り合い所の店主はここ一週間の出来事をさっと振り返える。近辺からの依頼の量、受注率と成功率、そして期限を過ぎても戻ってこない未帰還者達……普段通りだ。普段通り消化率は最悪で依頼は溜まっていく一方、都市圏から腕試しだ何だと出張ってきた新人まがいどもは先輩同業者の助言に耳を貸さずに棺桶に足を突っ込む……普段通りの平常運転だ。
「何もかも普段通りさ」
無情感たっぷりに答えてやれば、その男は陽気な態度でカウンター席に座り料理を注文する。といってもこの辺境では出せるものはそう多くない。ささっと調理したものを出して、またもの思いにふけよう。店主が依頼書という名の山脈から目をそらしつつ考えていると、男は相変わらず軽い調子で
「そういや路銀もそろそろ心もとなくてね~ せっかくだしその溜まってる依頼を片付けてあげようか?」
その言葉に思わず店主は男を見つめる。上から下まで舐めるように見つめてやる。決してその男がイイオトコだったとか、「やらないか?」とおもむろにボタンを外しながら言うつもりはない。あくまで男の力量を測るためだ。
いい感じに使い込まれた革と急所に配置された金属の複合防具。所々の大きめの傷があるがしっかり補強しているのだろう。長さの異なる片刃の剣が左右の腰にそれぞれ一本、双剣使いとはめずらしい。
「討伐系で良いか? 採取系もあるにはあるが」
「おう、問題ないさ。 てか見ず知らずの土地で採取系はちょっと.…」
やはり店主の見立て通り戦闘系の冒険者だったようだ。
さすが俺、伊達に店主やってないわ。と、店主は内心で自画自賛しつつ中堅どころの依頼をいくつか見繕ってやる。
「討伐部位は右耳と牙一対ってところかね。 ではちょちょっと終わらせてくるわ」
いつの間にか料理を食べ終わっていた男はそう言い残して去っていった。
それを見送った店主の額から一筋の汗が流れ落ちる。その事に気付いた店主は胸に詰まったものを吐き出すように一息ついた。
「見た目も態度もそこら辺にいる青年なんだがなぁ」
店内に入ってきた男と目があった時、荒くれどもを束ねる為にそれなりの修羅場をくぐってきたこの俺が斬られたと錯覚した。彼の回りには絶えず亡者の影があり、仄かに血の匂いを纏う。その気配はまるで
「ありゃ飢えた狼だな。あの年齢で一体何を背負っているのやら」
店主は長年の勘から何かが起こるだろうと感じると同時に、どうかやっかいごとだけは持ち込んでくれるなと、信じもしない神に祈るのであった。
そして亡霊と鮮血は出会う。その先にあるのは何なのだろうか。