計画
女との最初の交渉を終え、少し時間が経過した。ようやく12時を過ぎた頃だろうか。
他の人間もそれぞれ交渉を進めている。
辺りに5組ほど座って交渉を行っているようだ。
俺の所持金は残り4万円。寿命はプラス1年。
一旦今の状況を整理して、これからの作戦を立てよう。金を狙うのも、寿命を狙うのも、状況によって最善手は変わってくる。
金が減ったから今度は金狙いで交渉を仕掛けるべきか.....?
壁にもたれながら考えを巡らせる。俺はゆっくりと瞼を閉じた。自問への今の解答を見つけに行く。
いや.......
金を手に入れる方法はもう一つある。まだ詳細はあきらかになっていない、『ゲーム』とやらだ。金額もルールも何も明らかになっていない。しかし、この『ゲーム』が恐らくキーになるだろう。
『ゲーム』によって賞金が手に入るのなら、
誰が勝つにせよ、この場内での金の流通量が増えるということだ。要するに、インフレが起こる。そうなると金の価値は下がり、逆に寿命の価値が上がる。となると、序盤でインフレの無い今、寿命を集めるのが有利だと言える。
もう一つの可能性として、『ゲーム』の勝者が誰か、もしくは敗者全員から金を奪うことができる、というルールかもしれない。そうであれば全体の流通量は変わらない。だが、この場合も持ち金は少ない方がいい。単純に狙われにくいし、奪われる量も少なくなる可能性が高い。
もちろん確実とは言えないし、もしかしたら俺の思考で捉えきれていないことがあるかもしれないが、俺がこれ以上悩んで正解に辿り着ける保証も無い。
やることは決まった。『ゲーム』が始まるまでは寿命を集めるべきだ。残り4万円で寿命をできるだけ多く集めなければならない。
先程交渉した女から1万円で1年買ったのを少し後悔した。寿命を増やせたのは良かったが、もう少し安く買えた可能性は高い。とはいえ、考えがまとまっていなかったから、仕方ないといえば仕方ない。それに、俺が交渉の主導権を握ったことで精神的に優位に立てただろう。
仕方ない投資だと割り切ることにした。しかしなかなか未練はこころにこびりついて取れないものだ。
とにかく、寿命を集めること。老人はなかなか寿命を手放さないだろう。となると、狙うべきは比較的若い奴らだ。
俺はしばらく歩き回った。特に金欲しそうにしている奴が狙い目だ。しかしいくら歩き回っても、外見だけで判断するのはなかなか難しい。
ふと目に付いたのは太った男だった。若いのかどうかは見た目だけではわかりにくい。だが、すでに探索に時間をかけ過ぎている。焦燥感と苛立ちが、すぐに行動に移させた。
少し早足で距離を詰め、その男に声をかける。
「すみません、お時間よろしいですか?」