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交渉狂舞  作者: 大友仙城
3/8

最初の取り引き

そうは言うものの、誰も動かない。俺も含め、突然状況に混乱しているか、様々に思考を巡らせているのだろう。


頭の中でこの脱出ゲームの整理をする。


まず、100万円を稼がなくてはならない。稼ぐ方法は2つ。1日1度のゲームに勝利するか、寿命の取り引きをすること。ゲームについてはまだ何も知らされていない。よってその時間まではとりあえず寿命の取り引きでお金を稼ぐことになる。


稼ぐためには寿命を売らなければならない。しかし、売れば売るほど死の危険が付きまとう。寿命は無制限にあるわけじゃない。ということは、誰かから安く寿命を買い、誰かに高く売ることが大事となるわけだ。これが取り引きの基本的な考え方になると言っていいだろう。


そして、交渉する相手も大事だ。老人は寿命を簡単には売らないだろう。死のリスクは高い。若ければ、寿命をその分買いやすい。年齢の他にもいろいろな要素によって交渉の難易度は変わってくる。


「さあ、どんどん脱出資金を稼いでください。」


スピーカーからさっきの声。煽るようなその言葉も、多くの人間には届かないでいた。だが、その声にに反応するかのように、大柄な筋肉質の男が動き始めた。


「よし、お前、俺と取り引きしろ。」


相手は近くにいた細身の若い男。多少怯えている様子である。


「あ、はい?私でしょうか、え、ええ....」


細身の男は応じる様子を見せた。男のガタイを見て、断りきれなかったのか、それとも策があるのか、何も考えていないのか。場内の視線は、その2人に集まった。


「なあ、俺の寿命買ってくれよ。2年で2万円でどうだ?」


大柄な男は積極的に交渉を進めようとしている。言い振りから見て、交渉を策を以って進めようというよりは、とりあえず膠着状態を打開したかった、というところだろうか。


「............」


細身の男は返さない。考えを巡らせているようだ。彼はこの『1番最初の重要性』を理解しているのだろう。1番最初の交渉の値段は、そのまま今後の基準となる可能性が高い。慎重になるのも無理はない。


長考。静寂が続く。


..............


他のプレイヤーも動かない。ピンと張り詰めた静寂が辺りを覆っている。


筋肉質の男はだんだんと苛立ってきているようだ。彼の貧乏揺すりが始まった。


「なあ、早くしてくんねーか」


強面の顔と怒りを帯びた声で少し脅しとも言えるこの発言。非常に短気で、感情的であることが伺える。脅しによって優位に立とうという魂胆か。


「そうですね...。正直、今の5万円しか所持金が無い状態で2万円失うというのは、私にとってリスクが大き過ぎますね。1年を5000円でどうでしょう」


「はあ⁉︎ふざけんな‼︎せめて1年1万円だろうが⁉︎安すぎんだろうが‼︎」


「それはあなたが勝手に決めた値でしょう。私にとっての寿命の評価はこのようだ、ということです。」


確か、ドアインザフェイスと言ったか。先に無理を要求することで、目標の要求を通す交渉の方法。細身の男はそれを利用して主導権を握るつもりのようだ。


「おい、テメェ、ふざけたこと言ってないで1万円にしとけや、オイ」


筋肉質の男は露骨に脅しにかかる。並みの人間ならビビって要求を飲んでしまったかもしれない。だが、細身の男にはきちんと狙いがあった、ら


「では、8500円でどうでしょう?私の出来る限りの譲歩です。これでダメだと言うのなら、この話は無かったことに。」


基準を緩める代わりに、次のチャンスを断ち切った。ここではこれ以上の利益は得られないと判断したようだ。筋肉質の男は渋々同意した。


「チッ、わかったよ、8500円だな。」


両者はT-phoneとT-watchを操作する。


「「取引が成立しました」」


それぞれの機械から鳴り響く声。


「それではこれで。細身の男が席を立つ。


最初の取り引きが終わった。


筋肉質の男は脅しで押し通すことが出来ず、恐らく細身の男の狙い通りになった。

この一線がこの場の50人に与えた影響は非常に大きなものとなるだろう。

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