ルール説明と開始の笛
「まず、脱出する方法から説明したいと思います。これは単純に100万円稼ぐことです。皆様のお手元に配られた、T-phoneに、電子マネーが5万円分入っています。ここでは、そのT-phoneが財布代わりとなります。そして、それは本人以外は使用することが出来ません。」
他の参加者も、T-phoneを手に取り、確認する。立ち上げると、画面に大きく5万の数字。
「ここでは、お金を稼ぐ方法が2つあります。ひとつは、毎晩19時から始まるゲームに勝つこと。これは実際にゲームを行う時に説明しましょう。そしてもう一つは、寿命のやり取りです。」
一瞬、聴衆は呆気に取られた。寿命?何を言っているのか、と。そんなことは普通に考えて不可能だ。
だが、普通に考えて不可能なことが現に起こっている。
直後、今まで以上にざわめきが広がる。この状況も、寿命のやり取りとやらも、オカルトが過ぎる。寿命のやり取りなど認めたくも無いが、これだけの人間を知らないうちに集め、閉じ込めるといった芸当が妙な信憑性を生み出している。
「T-watchには寿命を測る機能があり、常に寿命を測り続けています。T-watchの画面をご覧ください。」
皆一斉に左手に視線をやる。画面には0が2つ。
「左側の数字は、売った寿命の年数、右側の数字は、買った寿命の年数となります。寿命をやり取りする時は、当事者同士で話し合い、売る側がT-watchで、買う側がT-phoneで金額と年数をそれぞれ入力し、T-phoneをT-watchにかざすことで成立します。」
なるほど、この2つのアイテムは寿命と金銭のやり取りに必要だということか。
「金額は今自分が持っている金額までしかやり取りすることは出来ません。また、誰の寿命が残り何年か、誰も知ることは出来ません。もし仮に残りの寿命が自分の年齢を下回ってしまった場合、その場で即死します。」
即死、という言葉に怯えてだろうか、また場内がざわめき始める。怒号もかなり増えた。しかし俺は冷静でいた。寿命というからには、減れば死ぬ。自然とそういうSFチックな考え方を受け入れられた。漫画や小説の読み過ぎだろうか。
他にも何人かは平然とした態度でいたが、多くの人間は騒がしいままでいた。
スピーカーの声は意にも介さない。
「T-watchの機能としては寿命の管理です。脱出を成し遂げるまで外すことは出来ません。そして、T-phoneですが、こちらは様々な機能があります。金銭の管理の他、電話、個人チャット、グループチャット、その他便利機能等、になります。」
T-watchは確かに外れない。無理矢理外そうと躍起になっている人間もいるようだ。T-phoneは使い勝手自体は普通のスマートフォンとそんなに変わらないようだ。
「周囲にいくつも扉が見えると思いますが、そちらが個人の部屋になります。ストレスなくくつろげる仕様になっております。鍵はT-phoneがその役目を担います。掃除は外出時にオートで行いますのでご安心を。この中にはお金を必要とする施設やサービスもありますので、T-phoneの電子マネーをご利用ください。一通りの説明は以上になります。質問はございませんか?」
ざわめいていた場内は一気に静まり返り、緊迫した空気に変わった。ものの数秒ではあるが、静寂が続く。
「ふむ。よろしいですね。また質問等あれば、『運営』という連絡先にご連絡ください。では、ゲームスタートです。」
ついに火蓋が切って落とされた。