密室より
少しだけ湿った空気。目が醒めるとそこは見たこともない密室の部屋だった。部屋と言うには少し広すぎるかもしれない。小さな体育館くらいの広さはあるだろうか。
俺は辺りを見回す。その広い空間に点在する、机や椅子。自販機も、売店?のようなものもある。そして、扉が至るところについている。何人かが開けようと試みているが、開く気配は無い。その場には湿った雰囲気が漂っていた。
確か昨日はいつものように午前1時頃に眠りに就いたはず。夢かとも考えたが、それにしては鮮明な映像。それに醒める気配は全く無い。
どういうことだ?まさか、俺はここにテレポートでもして来たということか?
混乱と焦りで少し鼓動が早くなる。
見渡せば、俺の他に50人くらいの人がいるだろうか。老若男女、様々。
誰も自らがそこにいる理由がわかっていないようだった。
何が起こったのかさっぱりわからない。迂闊に動けない。恐怖と混乱で頭の中が満たされる。それは他の人間も同じようだった。
しばらくして、その部屋に連れて来られた?であろう全員が目を覚ました。
それからまたしばらくして、天井近くに設置されたスピーカーから声がした。
「皆様、お目覚めいただけたでしょうか」
なんだか機械じみた声だ。
「皆様にお集まりいただいたのは、他でもなく、『脱出ゲーム』をしてもらうためでございます。今ここには50人の選ばれし参加者がいらっしゃると思います。」
場内がどよめく。怒鳴り声をあげる人もいる。突然の状況に、混乱が生じている。脱出ゲームというと、俺もやったことがある。密室の部屋から謎解きをしながら脱出を試みるゲームだ。ゲーム機でやるものだったり、リアル脱出ゲームといって、実際に自分が密室に入って脱出するようなものもある。
「しかし、今回は通常の脱出ゲームとは異なっております。一般の脱出ゲームのような謎解きが無い代わりに、お金が絡んで来ます。詳しいことは、今から、アイテムを配りながら説明したいと思います。」
天井から穴が開き、クレーンのようなものでそれぞれの元へとアイテムが配られた。腕時計のような形状をしているものと、スマホのようなもの。
今の起こったことだけでも超常的な何かに巻き込まれていることを理解出来た気がする。ほとんどの人間は呆気にとられていた。天井からしなやかに伸びるその機械は、映画などで見るような、実に近未来的な動きとデザインだった。
「今お手元に配られた、T-watchとT-phone。こちらがこのゲームに必要なアイテムとなります。早速、T-watchを装着ください。」
名前からいって、スマホのようなものがT-phoneで、腕時計型のものがT-watchだろう。俺も含め、その場に集まっている30人は触れるのもためらっている。この状況で自らが率先して手を出そうとするやつはほとんどいないだろう。
「付けねばここから出ることは叶いません。その2つのアイテムを利用することがここから脱出する必須条件でございます。どうぞ、遠慮せず装着なさいませ。」
その言葉で何人かがT-watchに手を伸ばす。それを見て、他の人間も手を伸ばす。俺も周りに流されるように手を伸ばす。付け心地は悪く無かった。むしろかなりいい。邪魔をしない、程よいフィット感。
「皆様、ご協力ありがとうございます。それでは、ルール説明の方に移らせていただきます。」
機械的な声は高らかと謳いあげた。