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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

事故に遭いました。肩を脱臼しただけです。

作者: たくあん

飲酒運転、及びスピードが半端なく出ていた車に撥ねられ、私は呆気なく死んでしまった。その先で待っていたのは、黒猫の姿をした神様だった。私は、猫アレルギーである。

「近寄るなああああああ!!!!!」

「酷い…あんまりニャー…」

「私は猫アレルギーなの!!それ以上近寄ったら蕁麻疹出る!死ぬーー!!!!」

「お主もう死んでるニャー」

「気持ちの問題なの!!」

半径3mは近寄らない約束をして、神様と名乗る猫の話を正座して聞く。

聞くと、まぁ元々私は死ぬ予定だったらしい。ただ、無気力な私は特にこれと言って善い事も悪い事もしていないため、地獄も天国も当てはまらないという。ではそうなった者はどうするのか。輪廻転生をするらしい。そこで、何か特典として欲しいスキル等あればおまけしてあげるとの事だった。

「へぇ」

「まぁ、お主の場合は猫アレルギーの克服だニャー」

「あ、それはどうでもいい」

「今お主は愛猫団体に喧嘩売ったニャー!」

「個人の主観の問題です」

それよりも特典かぁ。

私は元々寂しがり屋ではない。むしろ彼氏には、「お前から一回も連絡来た事がない」と言われ、浮気をされて自然消滅は普通だった。だって、確かに好きだったけど、そんな頻繁に連絡すると私が疲れるじゃん。

それを踏まえて、

「喪女になりたい。バリバリの公務員になりたい。仕事が恋人でも全く寂しくないけど」

「猫克服するニャー」

「どうでもいい。モテモテって何それ美味しいの?引き籠りウマウマだね。孤独死?バッチコイ。でも公務員になって、出世してバーコード禿のおっさんの頭を更に剥げ散らかしたい」

「最低だニャー。男の敵だニャー」

「喪女にしろ。もーじょ!もーじょ!」

「後から後悔しても知らないニャー!!」

「全然」

黒猫の神様の目から一筋の水が流れたと思った瞬間に、意識が遠のいた。

喪女になってなかったら、絞め殺そうと思う。




ある日、登校中私は帰路に着いていた。中学校から家まで徒歩20分微妙に近いので基本は徒歩か自転車なのだが、私が住むアパートには駐輪所、またはそれに近い場所がないため、自転車を買えずにいる。車庫があるからいいとかそういう問題ではないのよ、おとん。

たまに自転車を乗っている所を見ると大変羨ましいです。えぇ。とても羨ましい。

そんな私なのですが、何の変哲もない道路歩道を歩いていたのですが、車にドンされました。打ち所が良かったせいで目が覚めた当日に退院しましたとも。右肩脱臼程度ですよ。加害者になってしまった美形のお兄さんはまだ大学生らしく、土下座されて治療費は出世払いするという事になりました。

で、一言言いたい事があるんですが、そのショックで前世の記憶が蘇りました。三日起きなかったらしいです。

そして、現在。あれからかれこれ1年経ったのだが加害者のお兄さんとはとても仲良くしてます。お兄さんの名前は愛沢翌(アイサワ ヨク)というそうです。今世の私の名前は、吉村紗千(ヨシムラ サチ)と言います。今年から高校生です。

「もしもし、翌兄ちゃん。コンビニのコーヒーゼリーが食べたいなぁ」

『いきなり電話してきてそれ!?』

「なんだか、左肩が痛くて」

『怪我したのは右肩だろう』

間違えた。

「翌君もさぁ、もうそろそろ私からの電話無視していいよ。出世払いって言ってたけど、私の治療費のために、大学生なのにそんなに働く事ないよ。過労で倒れちゃうよ。保険だってちゃんと適用されてるんだから、そんなに高くないし。それに、たかが右肩脱臼だよ?」

『その“たかが”で三日間起きなかった奴がよく言うよ』

美形のお兄さん改め、翌君はいつもそう言う。

今時風の、明るい茶髪にモデルかお前。と言いたくなるようなお洒落さんで、身長が高くて、脚が長いのだ。憂い顔が大変絵になる人なのだが、私からの連絡はいいが、基本的に面倒臭い。

「翌君」

電話の向こうは無言だ。彼は罪の意識が強い償いたいという気持ちが強すぎる気がする。

「翌君、私生きてるよ。確かに交通事故だったけど、私脱臼だけで奇跡的に済んじゃったんだよ」

『…だけど、お前走れないじゃん』

自己のショックで下半身が麻痺している、とかそんな重たい話ではない。本当に肩の脱臼だけなのだ。それだって全治2週間程度の軽いもの。だけど、その時のショックで私は走れなくなった。原因は不明とされているが、私の勘が言っている。あの自称神様の黒猫だ。なんかそんな気がした。

「翌君、多分だけど、それは翌君のせいじゃないよ」

多分だけど、自称神様の黒猫のせいだよ。とは言えなかった。中学生によく発病するあの病気だと思われたくなかったための守りに入ったのだ。





教室に入ると、転入生の話で盛り上がっていた。なんという事でしょうか。その話、私にも聞かせてください。そこまで思考が巡った所で即行動に移した。

「うちのクラスに美少女が来るらしいの」

「まさかとは思うけど、吉良君に色目使わないか凄く心配でさ」

吉良君とは、吉良(キラ) (ツバサ)といって、硬質な黒髪が特徴的な爽やか美少年である。運動神経抜群の吉良君は剣道部に所属しており、剣道部のエースらしい。頭脳は私の方が成績は良いとだけ言っておこう。

「しっかし美少女かぁ」

「まぁ、吉良君に色目を使おうものなら私達が黙ってないわ!」

「………そっか」

吉良君ファンの彼女は残念ながら我が校一の美少女だ。頭脳明晰で運動は今一。運動は私の方が出来るとだけ言っておこう。

そんな彼女を宥めていると、チャイムが鳴ったので自分の席に着く。そういえば、私の隣の席は空いている。以前より誰も座っていない空席なのだが、その空席を挟んだお隣さんが吉良君だったりする。

「今日は転入生を紹介する。皆仲良くしてやれよ」

ガタイの良いといえば、聞こえはいいがようは肥満体系のうちの担任の隣に立っているのは、本当に美少女だった。女子の制服を着て何やら恥ずかしそうにモジモジしている。トイレだろうか。

「えっと…、夢洲(ユメシマ) (ケイ)っていいます。よろしくお願いします!」

随分とハスキーな声だな。中世的な声っていうか、男よりの声にしか聞こえない。ミルクティブラウンの長い髪はツインテールで高い位置に青いリボンで括られていた。随分と胸辺りが平たいが、身長が高くて手足がスラッとしている。

「席は、吉良の隣だ。吉良手を挙げてやれ」

「はーいっ!」

元気いっぱいに挙手する吉良君を囃し立てる男子と、ギリギリとハンカチ噛みそうな勢いで睨んでいる女子諸君。吉良君の隣という事は、私の隣でもあるのだが。

「よろしくねっ。吉良君」

「あぁ。吉良翼っていうんだ、よろしく」

「うんっ」

そして私には挨拶なしか。良い根性してやがるな。




体育の時間になると、夢洲さんはなんでか男子の方に行って、一緒にバレーをしていた。

「なんなの!あの女!自分は特別とでも言いたいのかしら!!!」

キイッと悔しそうにしている我が校一の美少女は転入生を睨む睨む。恐ろしい形相である。

しかし、なんだか違和感を拭えない。というか、ジャージを着ている夢洲さんは何故かしっくり来るのだ。何故だろうか。

体育が終わった後もボンヤリと考えていて気付けば放課後になっていた。朝から見ていなかったスマホを見ると翌君からのメールが10通程来ていた。すまぬ。メールを確認しながら、ながら歩きをしていると男子トイレの前で人にぶつかってしまった。

「っすいません」

「ながら歩き、危険なので辞めてください」

「は、はい」

プンプン怒るその人は、夢洲さんだった。

「……………え」

今、男子トイレから出てきたんだけど。

「ゆ、夢洲さん!」

「え?」

立ち止まってくれた夢洲さんは改めて見ると、女子にしては身長が高い。

「さ、さっき、男子トイレから出てきた?」

「……まぁ、僕は男の娘だからね。当然トイレは男子用じゃないと変態扱いされるよ」

更に混乱してきた。

あ、そうだ。帰ってすぐに翌君にメールしないとな。あの人過保護だから少しでも疎かにすると面倒臭いんだ。

「だからね」

ギュッと右手を掴まれ、その手は美少女の股間に突っ込まれた。女子にはない出っ張りとでもいうのだろうか、なんて言えばいいのかわからないがこれだけは言える。

「ぎゃああああああ!!!!!!!」

女子の格好している時点で変態だろ、お前。と。





翌日、翌君の電話で起こされた私は、アラームと間違えて出てしまった。着信音とアラームの音楽一緒にするの辞めようかな。

「…………」

『昨日メールしたのに、返ってこないから心配したろ』

「…………」

昨日のショックが抜けない私は、翌君の話を右から左へと流していた。

それ以上にも、今現在の状態にも驚愕を隠せないでいたりする。

『……どうしたんだ?』

「……翌君、変態が私の部屋に居る」

『待ってろ!今すぐに行く!!』

電話が切れたのだが、この場合通話状態を保つのが普通ではなかろうか。相当パニックに陥っているようだ。

「変態って酷くない?」

「………なんで居るの」

「えー」

今日も素晴らしき美少女が私の学習机の椅子に座って、ジッとこっちを見ていた。

「理由ならあるよ」

輝かんばかりの笑顔を浮かべる夢洲さんは、椅子の上で胡坐を掻いて座る。その座り方辞めて欲しい。パンツが見える。女物のパンツが見える。

「おっと」

スカートの裾を股の間に滑り込ませているその姿は顔さえ見なければ、本当に変態にしか見えない。

「僕、前世も男の娘だったんだけどさ、性癖自体は至って普通なんだよね」

普通ってなんだっけ。女装は普通の性癖という分類に果たして当てはまるのだろうか。

「…………」

「で、今世の僕もやっぱり男の娘で全然問題ないんだけど」

親御さんから見たら、頭を抱える程の大問題だと思うんだけど。

「問題はね、この世界がBLゲームの世界ってとこなんだよね」

「…………はぁ」

「ちなみに前世、妹と姉がハマってたゲームなんだ。18禁でヤバい画像ばかりだったね。見た瞬間ゾッとしたんだ」

夢洲さんはどうやら中学生でもっとも発病しやすい病気に掛かっているようだ。警察に通報しようか。それよりも先に翌君が来そうな気がする。しかし私の両親はよくここを通したな。ていうか、私の家よくわかったな。

「このままじゃ僕は、お尻掘られちゃう。それだけはヤダ。と思って、頑張って記憶を探った。そして、解決策を見出した」

「うん」

「君は、去年事故にあって走れないはずだよ」

「……っえ」

走れない事に関しては特別隠している訳じゃない。誰かに聞いていてもおかしくない。だけど、そんなタイミングはどこにもなかったと思う。何よりも転入してきたばかりの夢洲さんが知るには早すぎな気がする。

そして、事故には遭ったが脱臼しただけだ。

「まぁ、本来それを僕が認知するのはもっと後なんだけど。君は確か過保護な大学生の男の人と仲が良いはずだよ」

「なんで……」

「その大学生が所謂僕にとっての攻略対象者だから。その大学生は君の未来を奪ってしまった事への罪悪感で執着し、それに君は甘えて愛沢翌を好きになって彼女気取りになるんだ。君は自己中心的で、周囲の人間なんてどうでもいいっていう考え方をしている、所謂ヤンデレになるんだ。最後に君は、僕との恋に破れて自殺するってシナリオになってるんだ」

え、私死んじゃうの?

事故っていっても、肩脱臼しただけなんだけど。走れないのは多分あのクソ猫のせいなのに?

「マジで?」

「マジ。そこで、僕はある可能性に気付いたんだ。君が本格的に愛沢翌に惚れる前に、君を僕に惚れさせて、僕と恋人関係になれば色んなフラグを叩き折れるんじゃないかって」

美少女は真顔でそう言ってくるが、その恋人関係とやらになった後が私にとっての大問題ではなかろうか。周囲から見れば百合ップルじゃないか。

私が世間様から変な目で見られるじゃないか。

「まぁ、夢洲さんのその計画は諦めて早々に掘られる覚悟決めればいいと思うの」

「簡単に言わないでよ!僕にはそっちの趣味はないって言ってるじゃん!ハメるなら男の口よりも女の子の下の口が良い!!」

「朝っぱらから何言ってんの!!!!」

あまりにも下品な会話をしていて、最終的には揉み合いになりベッドに押し倒される体勢になった途端に、翌君がノック無しで私の部屋に入ってきた。

「紗千!!」

「あ」

「あ」

その場で即座に引き剥がされて、正座を強制され小一時間程説教された。私が思ったのは今日が土曜日で良かった、という事だけだった。

翌君に彼、夢洲さんを紹介した時、翌君の頬が少し赤くなっていたのを見て、私が冷ややかな視線を送った。

「で、夢洲さんは実は男の娘で、紗千を一目惚れして猛アタック中と」

事実は、転入生の夢洲さんは隣の席になった私を認知したのは、翌君の説教中である。この短時間によくそこまでのストーリー展開を思いついたものだ。夢洲さんは少女漫画脳なのだろうか。

「うんっ」

「だからといって、男女がだな」

「そういえば翌君バイトは?」

説教モードの翌君は口煩い。いい加減にしてほしい。一回言えばいいじゃん。本人が反省しているかどうかは別として。

「今日は夜からだ」

「っち」

「紗千!」

また説教が始まりそうな所で夢洲さんが口を挟んでくれた。

「それよりも、僕紗千とイチャイチャしたいな」

「勘弁してくれよ」

百合ップルに見られるのが相当嫌な私は嫌な顔しか出来ない。

「夢洲さん、家まで送るよ」

「え、いいですよ。僕まだ紗千と一緒に居たいもん」

「いいから来る」

実に不満そうな顔をした夢洲さんは言われるままに立ち上がり、翌君と一緒に部屋を出て行く。さて、二度寝しようか。




次に目が覚めたのはお昼を過ぎてからだった。目が覚めると翌君が私の部屋で大学の課題だろうか、一心不乱に勉強机に向って勉強していた。

「……翌君?」

「紗千……」

私の呼び掛けに翌君の手が止まった。

「なぁに」

「俺を許さないでくれ」

「だから、私が走れなくなったのは翌君のせいじゃないよ。先生も言ってたじゃん。原因不明だって」

何度だって言うが私がした怪我は肩の脱臼だ。足を怪我した訳ではないし、翌君が責任を感じる事等ないのだ。

「嘘を吐くな!」

「…………」

嘘じゃ、ないんだけど。

あの猫野郎何をしてくれたんだ。

「翌君のアホー!」

「んだよ」

急に罵倒の叫びを浴びせられて戸惑いを隠せない翌君は、顔を顰めつつ振り返ってくれた。ようやっと元の翌君だ。

夢洲さんを前にした時からちょっとおかしかったから、元に戻って一安心である。

素早い動きの出来ない足をゆっくりと動かして、翌君の後ろに立つ。

立って翌君の脳天目掛けてガツガツと頭突きを食らわす。

「 辞 め ろ 」

「ごめんなさい」

ガッツリお叱り頂いた。

「ねぇ、翌君。私はもう充分だよ。翌君にいっぱい甘やかされて、楽しかったけど、ウザかった」

「おい」

「でも、やっぱり楽しかったよ。楽しさの方がずっとずーっと記憶に残っていて、ずーっとこんな時間が続けばいいのにって思った事あるよ。だけどさ、」

「…………」

翌君は責任感が強すぎた。車で軽い事故を起こして私を怪我させた事に後悔と責任を感じている。ただの肩の脱臼に大袈裟過ぎるのだ。足だって、どう考えたって翌君のせいではないのだ。

「翌君は、もっと自由で居ていいと思うんだ。こんなJKに構ってないで青春謳歌しなよ。大学生なんだからもっとサークルとかに顔出して、吐くほどお酒飲まされて黒歴史作ってきなよ」

「最後のマジ余計」

「彼女出来ないぞー」

もっと隙を見せるべきなのだ、チャラ男の癖に女遊びしないで何するんだかなぁ。私が翌君なら美人な女を侍らして、毎日ウハウハしている。

「お前ってさ、夢洲と付き合うの?」

「…………夢洲さん狙いだったの?」

「ちげぇよ!!!!」

翌君の方から筆箱が飛んできた。ポコンと頭に当たって、ベッドに落ちた。


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